消えた一ノ瀬さん

 お昼の放送がしんどかったのもあり、私としては共通の友人である一ノ瀬さんに仲を取り持ってもらうしかないと判断しました。話し合いが通じない以前に、話しかけても無視され続けるのでコミュニケーションが成立しないからです。


 一ノ瀬さんは休憩が被れば会うので、そのタイミングを待ちました。ところが、待てども待てども彼女と会える日が来ません。


 おかしいぞ――嫌な予感がしました。


 コールセンターには手荷物を入れるロッカーがありました。そこには各オペレーターの名前シールが貼ってあります。


 一ノ瀬さんのロッカーは知っていたので、そこを見に行きました。すると――


「なん、だと……」


 彼女のロッカーから名前のシールが無くなっていました。つまり、一ノ瀬さんは知らぬ間に契約を更新せず辞めていた、もしくは契約を切られた事になります。


 ――何という事だ。


 後悔しても遅かったのです。樹里亜さんの地雷を踏まないように2人と距離を置いている間に、一ノ瀬さんは職場から消えてしまいました。


「せめて一言ぐらい言えよ……」


 かつての帰り道を思い出しながら、私は一人で天井に毒づきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る