今から気絶するから

「他も、終わったみたいだな」


 街を見渡すとあれだけいた魔族たちは見事に全員倒されていた。


「完全勝利ですね!」


「ああ、長かったし疲れた」


 侯爵級が国境付近の廃鉱山に現れたという話から調査を始めて、それが罠で学園が襲われて。


 アネットの転移魔法で急いでやってきて、とにかく戦ってなんとか魔族を全滅させた。


 一連のできごとの元凶であろうオールヴァンスも倒れ、これでやっとすべてが解決だ。


「でも、殺されちゃった人は戻らないんですよね。なんだか、喜んで良いのか……」


「まぁ、犠牲は最小限だった。俺たちが来なかったらこの街に生き残りは1人もいなかっただろうし、喜ぶべきだろ。ほら」


 とあるものを見つけた俺は指を刺す。

 そこにいるのはこの街の生き残りたちだ。目が合うと、彼らは大きな声をあげる。


「助けてくれてありがとー!!!」


「あなたたちのおかげで生きてますー!」


「魔族を倒してくれてありがとう!!!」

 

 オールヴァンスと戦った俺やメリーネにはもちろん。

 ネロやスラミィ、俺たちが駆けつける前に身を挺して戦っていたジークたちにも声援が飛ぶ。


「これだけみんなが感謝してるんだ。殺された人の弔いに復興……この先は大変だが、今は喜んで良いはずだ」


「……そうみたいですね。みんなを守れてよかったです! あ、ジーナとエルヴィンさんもいますよ!! おーい!」


 生き残った人たちに紛れた見知った顔。

 無事な姿を見てホッとする。


 戦闘中は考えないようにしていたけど、ぶっちゃけかなり不安で仕方なかったのだ。

 本当に良かった。


「レ、レヴィさん、メリーネさん! 見てました! あんな強そうな魔族に勝っちゃうなんて、さすがです!」


「ご主人さまー! 街のみんなはスラミィがちゃんと助けたよ! えらいでしょ!!」


「2人もよくやったな」


 ネロとスラミィがやってくる。

 今日の戦いはこの2人も大活躍だった。


 人海戦術が使えるネロがいなければ救助が間に合わない人が出ただろうし、オールヴァンスの『蘇生の奇跡』に対抗することができなかった。


 スラミィがいなければ怪我人を癒すことはできなかったし、最終局面で侯爵級の1体を抑え込んでくれたおかげで戦い安くなった。


「ところで、エヴァンリートさんはどこに……」


 メリーネがふとしたように、きょろきょろと辺りを見回す。

 たしかに言われてみれば、あの女魔族の姿がいつのまにかなくなっていた。


「シックロックなんかに負けるとは思えませんし、倒されたわけじゃないと思うんですけど」


「魔族だし、俺たちと過度に馴れ合う気もないんだろ」


「うーん、そうかもしれませんね。お礼くらいは言いたかったのですが」


「いつかまた会ったら言えばいい」


 エヴァンリートは本当に変な魔族だったな。

 人間に助力するなんて、あいつらの生態から考えると明らかにおかしい。


 たしか戦士がどうのと言っていたな。

 人間に対する加虐衝動を強者との戦いへの欲求に変化させているようだった。


 メリーネのことを気に入っていた様子だし、きっとどこかでまた出会うことになるだろう。

 それが良いことか悪いことかは……今はいいか。


「それにしても、もう魔力が空だな。重力300倍はさすがにやりすぎた」


「あはは、レヴィさまの神器は魔力の消費がとっても多いのでしたっけ」


「俺の特性を考えたらベストな神器ではあるけどな」


 魔力を他のエネルギーへと変換する能力はとにかく変換効率が悪い。

 強力なのは間違いないが、1000の魔力で1の別エネルギーへと変換するような酷すぎる燃費だ。


 普通に魔法を使ったのでは絶対に切れることはないと確信できる魔力量を持つ俺だけにしか扱えない神器。

 まさにワンオフの専用武装。


 さすがに重力300倍は過剰だった気がするけど。

 後先考えず絶対にここで倒すという考えからの全ブッパだったが、おかげで魔力が空。

 いや、正確にはまだ1割ほど残ってるけど。


 と、そんなことを考えているとアネットとエミリーがやってきた。

 気絶したジークもエミリーに背負われている。


「よっ、救世主! レヴィくんたちみんな揃って強すぎるよ! 本っっっ当にすごい戦いすぎて、もうすごいって言葉しか言えないよ〜!」


「重ね重ねになってしまいますが、もう一度感謝を! 何もかも、みなさんのおかげですわ!」


 エミリーもアネットも興奮した様子。

 というか、救世主なんて言われても困るな。


 その背中に担いでるやつが本物の救世主で、お前たちがその仲間として世界を救うのだが。


 今回痛い目を見たことだし、少しジークたちが強くなるのを急がせた方がいいかもしれないな。

 さすがにゲームの知識を持つ魔族なんてイレギュラーはもう現れないかもしれないけど、念のためだ。


「今度、ジークも含めて俺が鍛えてやるよ」


「い、いいのですか!?」


「ああ、今回のこともあったし。今後も魔族が動いてくるのだとしたら、人類側の戦力はいくらあっても良い」


 ――七竜伯が3人欠けたし。

 そんな言葉は呑み込む。

 いずれ公表されるかもしれないが、今はフロプトに直接教えられた俺たちと国の上層部しか知らないことだ。


 ……頭が痛くなってくるな。

 オールヴァンスが人類勢力に開けた風穴がでかすぎる。


 これ、どうすりゃいいんだろ。


「――ん?」


 ふと、気絶したジークを見ると何かの違和感を覚える。


「……エミリー、ジークを下ろしてくれ」


「え? えっと、まあいいけど」


 エミリーの背から下ろされたジークへと近づく。

 そして、何かうずきのようなものを訴える右腕でジークへと触れた。


「はぁ、お前は本当に最悪の敵だよ」


 右腕――神器の指先から探るジークの魂。


 そのそばにあるジークとは別の小さな魂。

 既視感のある悪意を感じるその魂は――オールヴァンスの魂の欠片か。


 胸を貫いたときか、それとも心臓を食べたときか。

 あれだけの実力を持ちながらも、いざというときのためにこんな保険を用意していたのだから恐ろしい。


 だけどもう、これで本当の最後だ。


「メリーネ、悪いが後は頼む」


「えっと、レヴィさま? 頼むって何を……」


「今から気絶するから」


「レ、レヴィさまっ!?」


 俺はジークの内に潜伏するオールヴァンスの魂の欠片へと意識を集中させ、神器の力を解放する。


「じゃあな、最強の魔族――『輝きの銀クラウ・ソラス』」

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