赤ずきんさんはおばあさんになりたい!
星宵 湊
第1話 教本は少女漫画で
クラスメイトたちが帰宅して2人だけになった教室で男の子は言った。
『佐藤さん。好きです。付き合ってください』
『え!私なんかよりもきっと可愛い子は沢山いるし、もっと田中くんに見合う人がいるよ』
『そんなことない!ずっと俺は佐藤さんが好きなんだ』
『きっと、勘違いだよ。よく話したことないし。お互いのこと全然知らないし…』
『なら、恋人を前提に友達になってください』
『え』
『佐藤さんの隣を予約させて。俺を知って、好きになって?』
『…じゃ、じゃあ、お友達として、よろしくお願いします』
「その後2人は晴れて結ばれるのでした。っていう展開だよね〜!!」
読んでいた漫画を閉じ「はぁ」と息をこぼす少女。そして目を瞑りどこかに想いを馳せ…ようとしたところで声が響く。
「学校に送れるわよ!!」
「え?!お母さん、行ってきます!」
少女は慌てて赤い頭巾を被り家を飛び出した。
ズレてしまった赤い頭巾を直しながら少し早足で歩く少女。その姿に誰もが振り向く。
サラリと風に靡く艶のある射干玉の髪。そひてガーネットを嵌め込んだような美しい瞳。
神様が手ずから作ったような美しい少女がそこにはいた。
そうしてすれ違う人々に見惚れられながらもチャイムが鳴る5分前に教室にたどり着いた。少女は緩やかな微笑みを浮かべながら挨拶を交わし席はと向かう。
その時、後ろから声を掛けられた。
「おはよう、赤ずきんさん」
狼の耳をもつ青年を目に入れた瞬間、彼女はピシリと固まった。
そして一呼吸を置き、少女は顔を真っ赤に染めて、ぎゅっと目を瞑り一世一代の告白をするかのように青年に告げた。
「オオカミさん!好きです!私を食べてください!!」
「ごめんなさい。無理です」
「そんな……!」
少女は被っていた赤い頭巾をぐっと引っ張り俯いた。それを見た青年は慌てた様子で少女に声を掛ける。
「え、ごめん、ごめん。泣かないで!食べるのは無理だし……ん?」
「今日も駄目だった。なんで?顔は完璧なはず。うん、やっぱり昨日よりも可愛い。服も彼の好み通り。……はっ!まさか、表情?!クールビューティー好き?!そんなデータはなかった筈……でも、もしそうだとしたら私はどうしたら……!?照れずに想いを告げるなんて無理よ!それなら」
狼族である青年の持つ大きな耳は少女の呟きも完璧に拾った。いや、拾えてしまった。
「赤ずきんさん、あの」
「あの手しかないのね」
「赤ずきんさーん?」
「でも、あれは奥の手…!」
「もしもーし」
自分の世界に入ってしまった少女に青年の声は届いていなかった。試しに目の前で手を振るも反応はない。しかし、何か覚悟を決めるように1人少女が頷くと「オオカミさん!!」と言い青年の手を取り、顔を上げた。
この時、少女の脳裏には今朝読んだ少女漫画のとある場面が浮かんでいた。
「私と恋人を前提に!お友達になってください!」
「え!?」
「やっぱりこれも駄目ですか…?」
固まる青年に少女は不安そうに瞳を揺らした。それを見た青年は反射的に答えてしまった。
「お友達としてよろしくお願いします!」
「本当ですか?!やったぁ!」
頬を緩め嬉しそうに笑う姿に青年の心臓がトクリ鳴った。
そしてこの瞬間、恋に落ちた。
そう、この一瞬だけ。
「そして、私を食べてください!」
「だからなんでそうなるの?!」
彼女たちの恋は始まったばかり。ここから2人の攻防戦が始まるのです。
食べられたい赤ずきんVS変人に恋されたオオカミ。
その天秤が少しだけ傾き始めた。
赤ずきんさんはおばあさんになりたい! 星宵 湊 @shiro_fuku
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