本編
本編 1
季節は春。四月の中旬。
大学内は始まりの雰囲気によって活気づき、桜の花びらが舞う中、人々で溢れかえっていた。
いわゆる、サークル勧誘というやつである。
先日入学したばかりの一年生がガイダンス授業を受け終え、各教室棟から出てきたタイミングを狙い、次々と二年生以上の人たちが声を掛けていく。
俺の所属してるアウトドアサークルもその例に漏れず、目に付いた一年生へナンパ師のごとく次々と声を掛けていた。
サークルメンバーの男子たちは「可愛い子は絶対逃がすな」なんて息巻いてたけど、その圧みたいなものはやっぱり女の子たちに伝わるらしく、引いてるような顔をされてスルスルと逃げられる始末だ。
傍で見ていると、そのむなしさがより一層伝わってくる。悲しいもんだ。
「橋木田成。どう? 勧誘チラシ渡せてる?」
程々の熱量で通りすがる一年生にチラシを渡し、ナンパ系勧誘する男子たちを見ていた俺に対し、後ろから声を掛けてくる女の子が一人。
栗色に染まっているロングヘアは大人しさを感じさせてくれながらオシャレで、彼女のらしさみたいなものを全面に出している上品さがある。
「さっきからボーっとしてるけど、わかってる? 午前までにチラシ渡し終えて、ここ撤収しなきゃいけないんだからね?」
ただ、言い方は少々キツイ。外見は変わっても、内面というものはなかなか変わらないものである。
「わかってるよ、赤坂。でも、俺が精力的に動く必要も無いかな、と思って。他の男子たちが活発過ぎるから」
「またそんなこと言って。皆でしっかりやんなきゃでしょ? ほら、橋木田成ももっとチラシ配るの。はいっ!」
言って、俺の手にチラシの束をドサッと渡してくる。
彼女は赤坂。赤坂瑠璃だ。
小学校の時から、何だかんだ大学までずっと同じ。
学部だって人文学部人文学科と同じで、腐れ縁もここまで来ると笑えるレベル。
他に行きたい大学や、学んでみたい学部は無かったのか、と思ったりするけど、以前さりげなく訊いたら、
『私は自分の進みたい大学に進んでるつもりだし、学びたい場所だって自分の意思で選んでるから大丈夫』と言われたので、俺が気にすることでもないらしい。
別に俺について来てるってわけでもないだろうしな。赤坂が俺のことを好きだなんて風にも思わない。
というか、むしろ彼女が好きな男子は俺なんかじゃなく――
「よっ! 相も変わらず仲良さそうでんな、お二人さん!」
――こいつだと思う。
迫中仁。
彼も赤坂と同じくずっと学校が同じで腐れ縁過ぎる奴だ。
ただ、大学の学部は違う。迫中は保健系の資格を得ようとしてるため、総合リハビリテーション学部というところで日頃勉学に勤しんでる。校舎も人文学部棟とは少し離れたところにあるのだ。
「ふ、普通よ! 別に特別仲良くも無いし、変な風に言わないでくれる? バカ迫中!」
「おーおー、バカ迫中とはこりゃまたひでぇや。気ぃつけろ、成? こういう女を彼女にすると色々大変だからな」
「なっ……」
うろたえ、赤面して口をパクつかせる赤坂。
やれやれだ。
迫中はどうも自分が好意を向けられていることに気付いていないらしい。
「ん、んんっ! ま、まあ、彼女とかそういう話は置いとくとして、迫中はチラシ上手い具合に配れてる? 他の男子に比べて俺は程々にしか配れてないんだけど」
咳払いしながら俺が言うと、迫中は「バッチリよ!」と親指を上に突き上げる。
「サークル自体に入って欲しい思いもあるけど、夕方からする新勧飲み会にはなるべくたくさん可愛い子に来てもらいたいからな! 声掛けまくってるぜ!」
迫中もそっち側だったか。まあ、キャラ的にそうだとは思ってたけどな。
てか、相変わらず赤坂には一切お構いなしである。鈍感もここまで来ると清々しい。
「なるほど。じゃあ、俺もチラシ配り引き続き頑張るよ」
「おう! 頼むぞ、親友! お前も一男子として飲み会を盛り上げるために貢献してくれ!」
「ははは……りょーかい」
平和な奴め。
「けど、瑠璃は可愛い子連れて来られると複雑な心境かもなぁ。どっかの誰かさん取られないか心配になるだろ?」
「うるさい! もういいからアンタは持ち場に戻りなさいよ! 私は橋木田成と一緒にチラシ配りするから!」
迫中に茶化され、赤坂は未だ赤面した状態で反論していた。
というか、俺と一緒にチラシ配るのか。迫中と一緒にいなくてもいいんだろうか。アイツ、めちゃくちゃ他の女の子に言い寄ってますが。
「はいはい。ではでは、お二人とも仲良く頑張ってな~」
へらへらしながら手を振り、迫中は他の男子にちょうど声を掛けられて向こうの方へ行ってしまった。
人の気も知らずに楽しそうな奴だ。
俺の横にいる赤坂は一人で奴への文句をブツブツ言ってる。仲が良いのか悪いのか、わからないところはずっと変わらない。
「……じゃあ、一緒にチラシ配りしていきますか?」
「そうね……。ほんと、まったくよ。飲み会終わったら覚悟しときなさい」
俺は苦笑いを浮かべ、持っていたチラシの束を抱え直した。
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