第11話、エスケープ、当たり前のように風をまとって



少しばかり偉そうなところも何だか可愛くて。

マーサーに召喚魔法……従霊道士の才能があったのならば。

このまま何やかやで仲良くなって、スカウトするのもありだろうか。


そんな事を思いつつも先を促したけれど。

しかし別れは、あまりに唐突にやってきた。




「グルアアアァァッ!」

「うにゃあっ。な、なにでしゅか?」

「げっ。今度は、陸(ガイアット)ドラゴンじゃないかっ。なんで校舎の中に!?」


どう見ても、獰猛そうな赤いゴツゴツとした肌を持つ、肉食獣タイプの奴である。

そもそもドラゴンは属性の数だけ種類がいるのだが、見た目からして『獣型』で。

人を害する魔物と揶揄される一種だろう。


そもそも魔物と魔精霊の違いは人間種に友好かそうでないかの違いしかないらしいが。

理知的な感じはなく、ディノと比べても話し合いの余地はなさそうだった。


彼も、ディノと同じで此度の事件の首魁のひとりであろう『ガイコツのオヤジ』に不味くて刺激的な上に凶暴化してしまう虫を食べさせられている可能性は無きにしもあらずではあるが。

もともと凶暴で話の通じないタイプだと記憶していた以上に、やっぱりディノと比べるのも烏滸がましいくらいに巨体で。


正確には、ディノ30人分くらいの大きさは間違いなくあって。

その威容、プレッシャーに慌てふためき二人は互いにパニックに陥ってしまう。

 


「お、おい! ディノは親戚なんじゃないのか? なんとかしてっ」

「うにゃにゃにゃにゃにゃ~~っ……」


そう言ってマーサーが振り向いた時には遥か彼方にディノは消えていて。

 


「おおぉぃっ! ちょっと、道知ってんのかー! って、僕も逃げないとっ」

  


ゴウウウウッ!

そんな事言っている間に、容赦なく炎を吐いてくるガイアットドラゴン。

当たり前のように炎を吐いてくるが。

魔物、あるいは魔精霊の属性としては【地(ガイアット)】だろうか。


ユーライジア大陸で考えればいないこともないだろうが、その属性にならい棲息地はユーミールと呼ばれる大陸にあるガイアット国近郊のはずで。


やはりディノのお仲間かどうかはともかくとして、同じ場所からはるばる連れてこられた可能性は否めなかったが。

先ほどのディノの時のように偶然不思議なことが起こって凶暴化を解除する、なんて流れというか触れることもできそうにない暴れっぷりである。



「うわっちち!」


マーサーは慌ててしゃがみ込みゴロゴロ転がり、それをやり過ごす。

そのまま武器になりそうなものを探したが、そんな時に限って近くには瓦礫1つ落ちていなかった。

 

「いよおおしっ! こうなったら、僕の取って置きの魔法をお見舞いしてやるっ」


故にそう言ってマーサーは集中力を高めてゆく。

するとマーサーの体を中心にその場の魔力に変化が起き始めて。

それを察したのか、ガイアットドラゴンは低い唸り声を上げた。

 


「風よ、われに翼をっ、【フェザ・ヴァーレスト】っ!」


呪の終わりの句が発せられると同時に、【風(ヴァーレスト)】の魔力が辺りに満ちてゆく。 

 



「ガアッ!」


業を煮やしたのか、魔法を打ち出される前に防がんとする頭があったのか。

ガイアットドラゴンは前足をマーサーに振り上げる。


 

「とうっ!」


そこでマーサーは一つかけ声をあげたかと思うと。

さっと後ろに向き直り一目散に駆け出した。


完全に相手の虚をついた戦法である。

ようは逃げただけなのだが……。

 

 

しかし、そう何事もうまくはいかないらしく。

【風(ヴァーレスト)】の魔力付きダッシュで「第32実習室」と書かれたプレートのある教室を曲がったところで再び唸り声を上げる別のガイアットドラゴンに出くわしてしまった。

 


「うわっとと!?」


マーサーは何とか魔法を維持しながら逆方向へと駆け出す。

 


「グワアアアッ!」

「こ、こっちもか! ってか何体いるのさぁっ」



どうやら、はるばる連れてこられた陸ドラゴンの溜まり場ともいうべき所へとマーサーは入り込んでしまったらしい。

校舎内にそんな場所があるのかと驚くべきなのだが、普段からスクール敷地内の『フィールド』や『グラウンド』には、様々な種が暮らしていたため、こんな状況もスクールの生徒……マーサーにとってみれば比較的慣れっこだったりするのはせめてもの幸いか。




「か、囲まれた。後は……上かっ」


再びダッシュで階段を駆け上がる。

その階段は人が通るのには十分であってもガイアットドラゴンが通れるようにはできていないようだ。

その事に気づきマーサーはニヤリとする。


 

「やったぜ見たかっ、僕の勝ちぃ」


妙な満足感を得つつ。

マーサーは別の校舎に移るために、そのまま渡り廊下へと向かった。

 



(しかし、校舎の中にまで、魔物がうろついているんだな。ディノもそうだけど、シュンたちは、大丈夫だろうか?)


スクールに何かが起きてからどれくらいの時が経っていたかは分からないが、ふいに家族や友達の顔が浮かんだ。

 


(タカ達ならぜんぜん心配いらないんだけどな……)

 

そんな事を考えていたためか、マーサーは前方の渡り廊下が、壊され途中から無くなっていることに気づかない。



 

「って、どわああぁぁっ……」


気づいた時には既に手遅れで。

宙に浮かぶことにかけてはトップクラスの性能を誇る【風(ヴァーレスト)】の魔法を発動するヒマもなく、階下へと落ちていってしまった。


そんなに上がったわけではなかったから、2階から落ちるくらいだろうとタカをくくっていた部分は確かにあっただろう。


しかし、踏み外した先には地面がなかった。

正確には、スクールの地下に蔓延るダンジョンの天井が此度の襲撃事件の影響なのか、吹き飛んでなくなって大分深くなっているのが分かって。


じたばたしつつも、頭など大事な部分だけは守ろうと無意識下で丸まりつつ落ちていき……。


瓦礫に降られ、それなりの時間埋もれていてもピンピンしていたマーサーでさえ意識飛ばす程の衝撃。


案の定、マーサーの意識はそのままブラックアウトしていって……。

               


    (第12話につづく)






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