【KAC20244】彼女のささくれ
ロムブック
彼女のささくれ
46億年前、地球はまだ誕生していなかった。
でも彼女は地球誕生の前からいた気がするのだ。
とは言ってもそんな訳ないのだけど。
手の綺麗な人にブスはいない。美人だと手が綺麗になるのだ。
だから彼女は美人だ。
それも滅法だ。
綺麗な女性が生み出す物も大抵は綺麗だ。
彼女の作る小物。
料理。
絵画。
交友関係。
彼女は良く手先を使うのでたまに手や指を怪我をする。
痛くないのかと心配をすると怒る。
怒られても嫌な気持ちにならない。
何故だろうと思うけど、優しい怖くない、
彼女はだから地球誕生の前にいてもおかしくない。
生態系の問題、理屈じゃない。
理想の相手としての問題。
形而上として。
黄金律として完成形。
そこまで言うとちょっと褒め過ぎか。
自分が彼女を好きと思う前にすでに愛していた。
出会う前から。
デジャ・ブ。
既視感であって前に会ったことがあるのだ。
「彼女にいつだったか会ったことが会った?」と聞いたことがある。
彼女はこう答えた。
「ないと思う。覚えてない」
「でもね、あなたが私にそう尋ねたということは、なくても、あなたはそう思ったということでしょ。てことは出会うに前に会っていたことがあるのと同じなのよね。そうでしょ。感覚的にはね。だからね。だけどね。もしかしたら、赤ん坊の頃やまだとても小さい頃の記憶が芽生える前に会っていた可能性はあるのね。そこまではわかる?」
相槌を打つ。季節は春だった。ようやく長い冬が終わり四月。彼女は先生はこの中学校の数学の教師だ。
「ただ生まれは九州と北海道の函館なので距離はある。親に聞いたらわかると思うけど私は北海道の生まれだけど九州には行ったことがないの。そしてあなたも私に会うまでは北海道に行ったことはないよね。だからそれ以外の場所?例えば有名バンドのコンサート会場で偶然会っているとか、イベントで遭遇している可能性はあるの。あなたはまだ十代でそれまで地元から離れたことなかった。だから私が九州に来るまでお互いは以前に会ったことはないと思うの」
全くその通りだと思う。そういうことではないんだけどな、会ったことがないのに会ったことがある。やはりデジャ・ブなんだよ、先生。
彼女は話しながら、指の先をいじっていた。どうやらささくれが気になるようだ。良くあることだからわかる。ムズ痒い。それだけで気になって気持ちが悪いのだ。
彼女は我慢できなくなって、ささくれを指先から切り落とした。
それも良くあることだ。
ため息をつく。
「じゃああと何か他に聞きたいことはない?」
「もう充分。よくわかった」
彼女が背を向ける。
意外と後ろ姿だけでもその人本人だとわかるものだ。
後ろにも顔があると言うか特徴があるのだ。
いやまだあとひとつこれだけは聞いておかなくちゃ。
「先生、地球誕生の前にあなたはいましたか?」
「いるわけないじゃなーい。やだぁ反町君たらお馬鹿さん」
唐突な質問に鳩が豆鉄砲という表情を浮かべた。おまけにお馬鹿さんと来たもんだ。でも悪くない気分だ。先生と話していて気分が悪くなることはない。どちらかと言えば言われてみたかった。
彼女は嬉しいと思っても普段からあまり笑顔をみせないのだ。それは教師だからではなく、冷静だからでもなく。ロボットのようにあまり感情がないから。彼女の考え方が非常に論理的であっても万人にはあまり理解されない。
先生、それでも
僕はあなたを。
あなたのことを。
以前から知っていた。
彼女のささくれ
おわり
【KAC20244】彼女のささくれ ロムブック @sumibi99
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