第15話 熱帯夜

 「え、名前ですか??...“ねね”ですけど??」


 「いやぁ、本当のお名前聞きたいなって思って。僕、もっとねねさんと仲良くなりたいなって。サイト見ながら最近思ってて。」


 「確かに、“ねね”は源氏名だけど。本名は知られたくないかな。ごめんなさい。」私にとってこの夜の仕事はあまり知られたくないし自分からリスクを上げるのは勘弁だった。


 「そうですよね(笑)すいません。変な質問してしまって。僕どうかしていました(笑)」


 「お店じゃなくてまたどこかで会った時があれば教えてあげるね!」彼のフォローをしながら、どうせ会う事は無いだろうと思いそんな返事をした。話をし続けていたらもう半分くらいの時間が経っていた。



 風俗嬢に本名を聞くなんて。少しの勇気を出した彼の事を今回は私の方から誘っていった....淫猥いんわいな雰囲気を作り出して、部屋の灯りを暗く...相手のシルエットが見えるかどうかの曖昧な明るさにして.....。


 残りの時間の内に私は溺れかけている人間の様に。助けを求め何かに捕まろうとしている人間の様に。彼に抱き着いたりした。彼もまた性欲には素直で“快楽”というものに対しては美食家であるかのように私の身体をまるで玩具を扱うかのようになぶった。お店の決まりで本番行為はしてはいけない...様々なお客さんを相手にしていると時には男根を入れてこようと無理やり襲ってくる人も中にはいる。私自身、そういったお客さんには出会った事もあるしそういった話も店長から聞いていた。男性経験はそんなにないが、今もしも亮太君と付き合っていなかったらこのままこの彼と一体化してしまいそうになるくらい私自身の心も性欲という名の“快楽”に素直になっていたのだろう。そう思いながら残りの時間に心を浸からせていった。彼の事を口や素股、手で逝かせたのち、私は携帯で残りの時間を確認して彼に問いかける。「後少しだけど延長....とかする??」自分から延長を聞くことは今までなかったがなぜだか今日は聞いた。

 「そうですね。じゃああと30分だけ。」彼は少し申し訳なさそうな顔で私にそういった。

 「わかった。そうしたら今お店に電話してみるから待っててね。」そう言うと煙草に火を付けながら電話を掛けた。


 「店長。延長30分頂きました。大丈夫そうですか??.....はい。分かりました。ありがとうございます。」4分弱の電話。煙草1本吸い終わる時間。電話が終わり彼も一度シャワーを浴びて帰ってきたところだった。

 「そうしたら後30分エッチな事しようか。どうする??このままする??ちょっと休んでからする??」携帯をテーブルに置きながら私は聞く。


 「そうですね、このまましてもらいたいです。」


 「分かった。じゃあ、今度は攻めてもらおうかな。」そう言って彼と身体を密着させてキスをする。さっきから私も身体が熱くなってきて濡れてきているのを感じていた。


 「ねぇ。触って..........?」そう言ったタイミングで携帯の画面が明るく光り、LINEのバイブ通知がテーブルを叩いて鳴った。

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朝顔の咲く季節にまた。 柊華(しゅうか) @rinngo0114

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