嬉しい! ※ホラー(全然怖くないよ大丈夫だよ)


 まじかー


 私は血まみれで倒れている私を見下ろしている。うわーすごい間抜けな顔で死んでるし。スーツは血まみれ。さっき私を轢いて殺していった車は走り去っていた。だから閑静な住宅街の道のど真ん中で妙なポーズで死んでる女性が一人。


 私だー。


 まじかー? もう一回そう思ってみた。でもまあ現実は変わらない。今日はいつもと変わらない朝に仕事行きたくねーって言いながらマンションを出た。実際最近の仕事はまじ上司のくそ禿にいろいろと言われてメンタルやばかったし。流石に死ぬとは思わなかっけどさ、ぼけーって歩いて死にたいなーってぼんやり思っていた。


 まさか本当に車に轢かれて死ぬとは……思わないじゃん。


 私は間抜け面の自分の顔をちょんちょんしてみる。おっ、触れないし。やっぱり今の私は……あれか。ゆーれい、幽霊ってやつか。本当に居たんだって感動しちゃう。


 あ、いやまって。これってあれ? 仕事行かなくていいわけ? やったじゃん!! まじか、休み放題ってこと? それに幽霊ならあれじゃない。映画館とか無料で入り放題じゃないの!? まじ、やば!? 嬉しい!


 どーせいいことなんてなかったし。このまま天国に行けるでしょ。だって悪いことはしたことないし。この死んだことだって私は悪くないし。


「きゃ!!」


 悲鳴が聞こえた。おっ、第一村人……じゃなかった第一発見者の近所のおばさんは突っ立っていた。恐怖に顔を引きつらせている。まあいきなり血まみれで私が倒れていたら驚くよね。よっす。おっす!


 当事者である私が場を和ませようと手をあげてみてもおばさんは見えないのか「きゅ、救急車」って言いながらどこかに行ってしまった。救急車はもう間に合わないと思うよね。魂はここにいまーす! なんつって!


 しばらくするとだんだんと人が集まってきて救急車がやってきた。医者? なんていうのかあの救急隊員の人が私の体を触って首を振ってる。まあ、無理っすよね。でも気を落とさないで私は元気だからさ。


 救急隊の人の肩をポンポンしてあげようと思ったけど触れないし。とりあえず「ファイト」って言っておく。まあ死体はなんかこううまく処理してくれるでしょ。ふぁー。眠たい。死んでも眠たいんだなぁ。大発見。


 大きく欠伸をして伸びをして急に死んだから仕事も休みだし。何をしよう。とりあえず家に帰るかな。まだ寝たいしね。


 そう思ってマンションに帰った。オートロックを文字通りすり抜けて、部屋のドアもすり抜けて……1階の部屋にただいまー!


 ベッドにだーいぶ! うわー。代休でも有休でもないのに眠れる。幸せ。おっとそうだ、SNSで死んだことを報告しよ。そう思ってスマホを探してみたけどああ、そっかー。死体が持ってる。じゃあパソコンで……あれれ。電源ボタンが押せない。触っているのになんか動かない。


 PCはだめか。じゃあ、うーんスマホ……はないんだって!! SNSで報告してみんなをビビらせてやろうって思ったのになぁ。じゃあテレビでも見るか。テレビ……リモコンが触れない。


 まじかー。今日何回目のまじかーなんだ。これ暇つぶしできないじゃん。おっ本は少し触れそう、ずりずり動かせる気がする。ううううううう!!!!!! はあはあ。だーめだ。1ページ開くのにすごい力がいる。


 しかたない寝るか。ぐーぐー。


 気が付いたら夜になっていた。丑三つ時ってやつですな。あ、違うか。まだ7時くらい。でも結構寝てたな。外にでて一般人を驚かせてやるか……。私はそう思って外に出る。


 おっ! 道に出ると女子高生発見。ばーーー! って前に出てみたけど反応なし。こいつ霊感ないのか。仕方ない。次は、おっさんじゃん。まあいいか。おっさん幽霊に構ってもらえる嬉しいでしょ。って反応なしかい。スマホ片手に歩きやがって。何を見てんだ……家族でのSNSか今日の夕ご飯何にするって話。ふんふん。人の秘密を見れるの楽しいな。


 とりあえずいろんなところに行ってみるか。やくざの事務所とか楽しいかも……!


 夜は短し歩けよ私ってね。

 

 歓楽街にでていろんなお店に入っては出る。幽体だからどこでもはいれるんだけどお金とかないから何もできないんだよね。今日はカエルかー! げろげーろ。



 そうやって1日目が終わった。案外楽しかった。






 そうやって10日目が終わった。マンションは解約された。いてもいいけど誰も私に気づかない。





 23日目……だっけ。





 誰とも話してない。





 45日目












 私を、誰も





 話してくれない







 98日目寂しい。



 さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい


 さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい

 さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい


  さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい

  

 さびしいさびしいさびしいさびしいさびしい


 死にたいしにたいじい死にたい…殺して、殺してぇ! 私はここにいるの。私はここにいるの誰か話しておねがいします



  おねがいします   かみさま かみさまぁ。わたしはここにいるのぉ。私はここにいます。ふざけんなよ。おわらないじゃんてんごくはどこにあるの私はここにいるのだれもわたしをみてくれないはなしてくれない何もできない。殺してくださいお願いします! お願いします



 365日


 






 街を歩くとカレンダーが見えた。私はそれを見てぼんやりと1年経ったことだけが分かった。私の体はどこに行った。私はどこを歩いている。このまま終わらないのか。終わらない毎日を歩いて……。このまま永遠に……


「あの。お姉さん大丈夫ですか?」


 私は振り返った。そこにはかわいらしい女の子が立っていた。学生服。中学生くらい。



 ………



 …………



 ワタシガミエルノ?


 顔が笑顔になる。あ、あ、あ。貴方は私が見えるの? 


「ひっ」


 アマッテ。ドコニイクノ。サビシイヨ。サビシインダヨ。マッテ。マッテ、オイテカナイデ。




 妙な人に会った。すごく体調が悪そうだったから私は声をかけたんだ。でも振り返ってすごく嬉しいそうで、でも目の中が真黒な人で怖くて逃げてしまった。まだ心臓がどきどきしている。


 家に帰るととりあえずお母さんに声をかけた。怖いからお母さんの傍に一度行きたかっただけ。でも怖いなんて言えなかったからミルクを温かくしてリビングで飲んだ。それで落ち着いた。


 そうしているとお母さんが「早く着替えてきなさい」って言ったから部屋に戻って制服からパジャマに着替えた。


「それにしてもあの人何だったんだろう」


 そう思って私は自分の部屋の中にある鏡を見た。


 私の後ろに嬉しそうな顔をしている女性が映っている。口を大きく開けて真黒な目をしたその人はけたけたと笑っている。


「……!」


 私が振り返るとそこには誰もいない。怖い。私は慌てて部屋から出る。その時後ろで声がした気がした。



 ミツケタ


 見つけたって何を……? 私はドアを閉めてあわてて出ていく。












 

 ――少女の出て行ったあと誰もいない部屋。誰もいないはずの鏡に映る女性の顔。それはこれ以上ないほどに嬉しそうな顔だった。






 






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