誰が見るか、どう見るか
ああ、残念。所詮上におもねるだけの人間でしたか。こうなれば高田豪三郎を抑えて『お友達』にできなかったのは残念です。
リリーナのイントツルスの評価はそれだけだった。
後はオリバーに任せるしかないですわね。
追加の注文をサラッとこなすとリリーナはオリバーを見守ることにした。
「私とベッサ公爵は表立っては握手一つ許されませんが、それだけです。家族間で手紙の遣り取りをすることは止められませんとも。最も嗅ぎ回っている連中がいるので厄介なのですが」
それもリリーナ閥へ参加することで大分緩和された。彼の今の地位はもはやほぼ死んでる反貴族派からは手が出るほどほしい、新設貴族になったときはそれは別と平然と言ってのける可能性すらある。実際のところ彼のリリーナ閥への加入というものは反貴族派らが手を引かざるを得ない状況に持っていけた好手であった。
「これでも家族仲はいいのですよ。たった一人の家族ですからね」
イントツルスにその匂わせはどう取られたのか?
ただのアピールか、本当に仲が良いと思ったのか。それともこういうことで弟にすがっているのか。彼がどう思ったのかはわからない。ただただそうなのですか、はぁーと完全に下手に出る行動をしていただけである。
「そんなに仲がいいこととは知りませんでした」
クレープのように薄い感想に思わずリリーナは吹き出しそうになるがそこは耐えて流した。オリバーは平然としてるが言われ慣れているのだろう。
「リリーナ様に届いた手紙の内容は知りませんが……おそらく私がリリーナ様の派閥に入ったことに関してでしょう。そうでは?」
話を振られたリリーナはええ、そうですよと言いながら笑いをこらえて平然としていた。
「内容を拝見しても?いえ、伏せたいことがあるのであれば結構ですが」
「え?ああいいですわよ。ベッサ公爵の兄に対して伏せることはございませんから」
正直なところオリバーを派閥に入れていただいたことへの感謝やら何やらで政治的に問題のあることはなにもない。せいぜい兄弟仲がきちんと互いのことでお礼を言い合えるほど良いくらいである。リリーナから見ても仲がよろしいことですわね程度の手紙であった。
渡された手紙を見たオリバーは軽く頷くと。
「イントツルス氏にお見せしても?」
「……ええ、どうぞ?」
はて?それが一体何になるのでしょうか?
リリーナは平民の思想も考え方もそれなりに理解はしてるが骨の髄まで貴族である。だからこそこのようなときに微妙な齟齬が出る。
一番の問題はカールが転生者であり貴族的な考えを持っていないことであり、それこそオリバーの5歳までのような態度を一切取っていなかったことだ。
なにせ彼は前世で貴族的なお手紙を書いたことなどないし、文面では家族を採用してくれてありがとうございますの手紙を彼の目線で書いただけである。
つまるところ貴族的な手紙の書き方だけを枠に当てはめたカールの手紙はリリーナには定型文に兄を派閥にいれた感謝、それも力の入ったものであり仲が良いということしかわからない程度のものであった。その定型文の部分を変えて貴族はああ、なるほどここを強調したいのかと表現するものだがカールにそんな真似は出来ないし、
とにかく5歳以降のオリバーは自分の仄暗い未来を予想して平民目線を徹底しており、一方でカールも元から平民目線であったため接しているうちにオリバーはやはり教育が大事だとなってしまった。
貴族目線はよろしくないと割り切ったオリバーとただただ前世のような思想でどうか何も問題が起きないでくれと生きていたカールは辺に噛み合った結果。オリバーは変に染まらなかったカールが平民目線になったのだと思っていた。
同時にそれが出来ていなかった自分にひどく憔悴したものでもあるが。
「貴族的な修飾語はご存知でしょうからあえていいません。読む価値もないでしょうしね、どうぞ」
そのようなことを派閥の長である貴族たらしい貴族であるリリーナ・シュツッテンファンベルクの前で平然と言う辺りオリバーもなかなかのものではあった。
自分が理解している権威に弱いイントツルスは軽く震えながら手紙を受け取り読み始めた。言われたとおり貴族的で面倒な部分は省いて読み始めると文面は実に平民的であった。
『……兄上を御派閥で引き立てていただき格別の感謝を……非才の弟の私が言うのもなんですが兄上は非常に優秀な方です。兄であればハリスン侯爵として私よりも活躍できたのに本当に惜しいことをしました。第1に……第2に……今でも私ではなく兄上であればと思っています。兄上がいらっしゃれば神聖帝国はすでに落ちていたやもしれませんし……兄上を御派閥にいれたシュツッテンファンベルク公爵令嬢のご慧眼には……』
リリーナは新設貴族であるベッサ公爵が自分の下手に出るとはさほど思ってはいない。兄のことだからこそ自分を立てて称賛している、その上で仲は良いのだと判断しただけである。リリーナからは仲の良い兄を引き立てるようにお願いする手紙である。
ただ兄目線のオリバーから見れば弟が自分を称賛してリリーナに感謝をしていることを伝えただけ。
そしてイントツルスからみれば地位を兄に渡してもいいほど優秀であることを新設貴族であるベッサ公爵が保証していると言う証明であった。
つまるところ彼の目線では新設貴族として名を挙げたベッサ公爵が兄であり新設貴族の地位が濃厚であるオリバー氏を絶賛しておりリリーナ閥に入ることも容認したうえで頼むと頭を下げていると取れる。
そう考えた場合リリーナ・シュツッテンファンベルクという人間が自分に力を貸してほしいと面会したわけではなく、出かけるついでに面会してやろうかくらいの態度で面会を申し込んだだけであると薄っすらと理解し、力関係が明らかに自分が劣るのだと今更突きつけられたわけである。
道案内を頼んだ掃除夫を雑に扱ったら実はその会社の社長であった話は創作話よくあることだがイントツルスは同じような気分を味わっていた。
そしてイントツルスが今までお飾りを脱却できなかった理由がこの十分程度の時間に詰まっている。
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