プッティン・オン・ザ・リッツにて

 プッティン・オン・ザ・リッツ。

 初代宰相の小説から名前着けられたこのホテルは帝国の歴史で言えば300件目くらいに同じ名前を冠したホテルである。


 ロートルド財閥代表のロートルドは財閥の中では最も新しい財閥である。新帝国戦争の敗戦から海軍力の増強を訴えた際にうまいところ採用され各部品の調達などで一挙に財閥化したため足元が不安定である。

 獅子身中の虫の如き信用できない人材を社長などにつけた高田財閥よりはマシだろうが、高田豪三郎とてロートルド財閥のような組織であれば自分は無関係とすべてを手放して隠居せずもう少し戦うか庇うかはしただろう。

 彼自身はバーゲンハイムが上手く立ち回ったと確信していた。

 確かに接触は禁止されてはいるが、まず査問会の証人として最初に呼ばれたのが高田財閥の高田豪三郎ということはおそらく失言をしたか醜態を見せたのは高田鉱山株式会社社長か高田鉱山開発公社社長のどちらかあるいはどちらもだろう。

 一代で成り上がり切り規模を大きくすれば婚姻政策も必須になり始める。

 重要立地の貴族を金で押し込めその息子に継承させるとしてもその子供が優秀とは限らない。

 自らも財閥代表であるロートルドはあれは30年後くらいの自分であると震えそになるが、そもそも財閥を維持できるかはわからない。


 リビット氏の邸宅に帝都平民義勇軍が押し入った話が来た途端誰もが困惑した。誰が売ったのだと。

 それから高田財閥総帥高田豪三郎が査問会の証人に選ばれる話を聞き、ならば我々は身を守ろうではないかと大急ぎで会議場所を抑えたのだが見栄のせいか余計な日数がかかった。

 ロートルドはこのような目立つ場所でするのかと困惑していたが財閥規模的に2つの財閥には逆らえない。

 むしろ自分と30年ほどしか変わらすベルソンヌ財閥とタルタ財閥と同規模に持っていけた高田財閥の手腕がなかなかのものだったのだが。


「ようこそ、ロートルド様。バンケットルーム、テレジアにご案内いたします」

「ああ、カルベニアンオーナー。あなたが?」

「財閥の代表がおいでになられるのです。非礼はできませんから」

「皆様は?」

「まだ到着しておられません。いつもと同じであれば1時間か2時間後だと」

「そうですか」


 この状況で遅れることによって大物アピールとは呆れる他ないな。

 あまり来ることはないがホテルのカジノで少し時間でも潰そうかとオーナーに尋ねると丁寧に案内された。

『ルイーズ及びルイーズ・ハリスン侯爵夫人、ルイーズ大公のご利用お断り』と書かれた金の鉄板で書かれた利用拒否宣言を見るとオーナーは。


「ここの経営が一時期傾いた理由がこのカジノで若き頃のルイーズ大公が大勝ちしましてね。ホテルの年間利益5年分を持っていかれたので出入り禁止の裁判を起こしたのです」

「よく裁判で勝てましたね。ギャンブルというものはあくまでで自己責任でしょう?」

「5日で25年の利益です」

「え?1日で5年分の利益を持っていかれたのですか?」

「はい、毎日。2日目で出入り禁止を通達して6日目に裁判所が停止命令を出すまでしつこいほどやってきました。改修費もすべて吹き飛び、借金ですので普通なら潰れているという理由で当ホテルのカジノは出入り禁止となりました。しかしホテルの使用は流石に止められませんので……稀にレストランで食事していかれることもあります」

「彼ら到着までここで時間を潰させていただきますよ」

「わかりました、それでは皆様到着後にお迎えに上がります」


 たまったものではないな。よくもまぁこれほど立て直せたものだ。

 同一人物を絶対に通さないために列記してるのはトラウマだなぁ。




 1時間ほど遊ぶがどこをどうやっても1日分の利益も消し飛ばせなそうだった。ルイーズ大公は全財産を毎回かけてルーレットでもやっていたのだろうか。


「皆様がご到着いたしました」

「ああ、ありがとうオーナー。それでは」


 若干負けであったが大したことではない。

 バンケットルームのテレジアに入るとほぼ同時に全員が揃った。到着を合わせたのだろう。一流のホテルは違う。


「ベルヌーイ総帥、ヘイドン・セラーズ代表。お久しぶりですね」


 ベルソンヌ財閥2代目総帥ベルヌーイとタルタ財閥代表で3代目のヘイドン・セラーズは陰鬱そうにしていた。


「ああ、ロートルド代表。お久しぶりですね。しかし高田財閥が証人にされるとは」

「お久しぶりですね。私にも先程情報が入りましたが」

「ああ、リビット師の家に帝都平民義勇軍が入ったと。よりによって国民衛兵でないところがまずいですな」

「まったくです。帝都平民義勇軍は平民の代弁者のようなもの、上から頼まれて動いたのであればそれが正当だということです。これはまずいですね」


 国民衛兵であればもう少しやりようはあったが帝都騎士団でないなら逮捕や処刑ではあるまい。そもそもまだ彼は査問会のメンバーのはずだ。

 つまり容疑があったとしても帝国の利益として逃げ切れるはずだ。

 3人はそれぞれそんなことを考えているがすでに査問会の証人として高田豪三郎はすべてを認めて株などをすべて処分して新領土へ向かっていた。

 彼等はすでに高田財閥が解体されたことを知らなかった。


「証人として出した社長とは?」

「いや、うちは接触できないな」

「同じく」

「私もですね」


 連携を取ろうにも高田財閥に押し付けるしかないだろう。問題は高田財閥がこちらに押し付けたか、それとも沈黙を守るかにかかっている。


「寄付金強要に関しては認めるべきだろう。リビット経済局長ガサ入れが入った以上は何らかのものが抑えられたと思う。高田財閥の提案ではないか?」

「それにはベルソンヌ財閥も関わっている。非常にまずい」

「しかし高田財閥が少しは粘るはずです。証人として我々が呼ばれていないならギリギリまで知らないフリをすればいいのです。せいぜい罰金と寄付金の返済くらいでしょう。デューイになんらかの手打ちを提案するべきでは?」

「いや、それはまずい。彼は財閥を叩く手土産を欲している。高田財閥を叩き切れるとは思わないが罰金程度では功績として弱い。なにせ商務省を軽んじていたからフーヴァーあたりも我々を叩き潰そうとしているはずだ」

「参加企業がなにか財閥を盾にして理不尽を働いた可能性は?」

「否定はできないな。無下にはしてないが軽んじてはいた」

「ロートルド代表は帝国海軍とのつてがあるから傷は浅いかもしれないが我々は厳しいかもしれんな。高田財閥はベッサの汚染土問題で後手に回ったことで大分怪しまれているかもしれない。だが鉱山は操業を止めて支援に回したし……やはり初動の遅さのせいか?」


 ヘイドン・セラーズは高田財閥が真っ先にやり玉に挙がったことを訝しげに思っていた。

 貴族の一族を母に持つ彼は粛清が後2回ほど起きなければ貴族になることはない。

 だが、一族である以上はそれなりに貴族間の流れを知っていた。惜しむらくは残念なことに貴族としては侮蔑される側であったことだろう。

 皮肉なことにタルタ財閥は平民のタルタが立ち上げた商会で貴族の一族の婚姻をしても商人としての仕事をしたので席次が低くもなく、平民の目線も無能貴族の一族と悪いわけではない。

 ただ結婚相手が無能な貴族の中でマシだったんだろうとしか思われてない。


 一方のベルソンヌ財閥総帥ベルヌーイは父の補佐としての経験上、殴る前には多少のアピールがあるはずだと思っていた。

 少なくとも初動が遅くとも高田財閥として動いた以上はここからさらに追い込むとしても罰金か、あるいは法改正と一部悪質な企業代表の更迭くらいだと思っていた。

 彼が少しばかり安心してるのはベルソンヌ馬車株式会社がベッサの汚染土問題などで活躍しているからだ。

 まさか繋ぎのお飾り社長イントツルスがここに至って財閥に対して反旗を翻したことなど知る由もなかった。

 今回のことを乗り越えたらイントツルスも更迭して繋ぎの人間を一族に変え、更迭する一族も横滑りさせるか自分の反対派閥も切り捨ててしまおうと思っていたベルヌーイは最悪の場合は自分が代表を降りて新しい財閥の会社を設立して社長になるのもいいかもしれないと思っていた。

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