私の彼氏
「あぁ、こんなところにあったんだ」
押入れの中から見つかったのは社員旅行の時、来た社員全員で撮った記念写真。もう三年前のことなんだ、と不思議な気分になる。
私と彼が二人で写っているのはこの写真だけ。私も彼もむっつり顔で、吹き出してしまいそうだ。
私と彼が付き合い始めたのは、この旅行がきっかけだというのに。
少しおかしく思える。
あの時は、どうだったか。今みたいに、遠距離恋愛をするなんて思ってもみなかった。
連絡は1日に数回。定型文と化した「おはよう」と「おやすみ」の言葉。そして、1週間にちょっとだけ行われる近状について。
電話はほとんどしない。
私も彼も忙しくて、ちょうど暇な時間が重なるなんて珍しいから。
昔は、あんなに仲がよかったのに。
冷めてきてしまったのだろうか。
いや、私はそんなことがないと思いたい。それとも、私が思いたいだけで、彼はそうではないのだろうか?
たった二年で、わたしたちの関係は消えてなくなってしまうもなのだろうか。
社員旅行があったのは、新人社員が入る前の、3月下旬に行われた。
今年も、それが終わったから、写真をしまおうと、押入れの写真入れを引っ張り出したのだった。
『別れどきなのかもしれない』
そんな声が、心の中でもたげる。
否定したいけど、このままずるずる言っても仕方がないような気もする。
最後に彼の気持ちを確認して、それからでも遅くはないだろう。
そんな楽観的で、未来から目を逸らすような、そんな考えかもしれない。けれど、私はそれに縋りたかった。
スマホの画面にはLINEの通知が来ていた。彼からの通知だった。開けば「最近どう?」と土曜日なのに、そんなことが書いてあった。私はそれに対して「なにも」と返してしまった。
こんなのでいいのだろうか? けれど、これまでとは違うことをするのはなんとなく、はばかられた。
そんなんだと、浮気されるわよ。
そんな、友人の声が聞こえてくるが、今更変えることはできるなら、困ることなんてない。そう、言えたらどんなによかったか。
私のスマホのお気に入りには彼の写真がいっぱいだ。もし、別れることになったら、これを全部削除しないといけないのかな。
そんなことを考えてしまう。未練タラタラだ。こんなんで、別れられるはずがない。
そのとき、また、通知が来た。「来週の日曜そっちにいくんだけど、暇?」と、そんなことが書いてあった。
私は舞い上がった。対面で会うのはおよそ、半年ぶりだろうか? そんなことを思いながら、もう来週の準備を考えている。
来週の日曜日が暇なのは当たり前だ。というか、暇にしてみせる。なにがなんでも。
ふふふ、と笑いながら私はまるで取らぬ狸の皮算用をするように、空想に幅を広げている。
次は、あんな仏頂面じゃなくてちゃんとニコニコした写真を撮りたいな。そんなことを思いながら。
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