第2話 魔王討伐①
ナタリアとの出会い───
それは、冒険者組合に出された魔王討伐依頼が切っ掛けだった。
発行主は領主ボルドー伯爵。ケチで冒険者から嫌われている。
討伐報酬なんて少額の金と多大なる名誉ときたもんだ。
魔王による被害があるのかと言えば、魔の森から現れる魔物が人を襲ったり畑を荒らす程度という話だが、そんな事は大昔から起こっているというのは周知の事実だ。
この町でトップクラスのパーティですら魔の森を突破するだけで一苦労なのだから、魔王討伐なんて土台無理な話だ。それでも組合からのご指名という強制参加命令が出た以上、挑まなくてはならなかった。
そんな利益度外視で無謀な旅に同行する者が集まる訳がなかった。
1回目なんてリタと四属性魔法使いのマリーネだけだった。
マリーネはエルフで人族嫌いだが、俺だけは気に入ったのか気さくに話しかけてくれる。見た目は人間でいう12歳くらいだが、俺の
そんなメンバーで討伐に向かった訳だが、魔の森では普段と違って何故か終始敵が強くてギリギリの勝てる戦いとなった。
そして、出発から一か月が経過し、ようやく魔王城にたどり着いた時、三人で声をそろえて呟いた。
「「「でっかー・・・」」」
魔王城が大きすぎて、塔の上の方なんて雲に隠れて見えない程だ。
(領主の城の何倍あるのだろうか、下手すれば王城を超えるサイズだろ・・・)
城の大きさから敵数を想像すると、三人で挑むなんて明らかに無謀。
それでも何もせずに帰るという決断もできず、俺たちは城内に入った。
(まぁ、いざとなれば、帰還魔法で帰ればいいだろう・・・)
城内に入って驚いたのは、敵の気配が全く無い事だ。
罠があるわけでもなく、ただひたすら通路を歩くだけの不可解な状況が続く。
試しに食事休憩をとっても、襲われることはなかった。
しばらくして、マリーネは怪訝な顔で呟いた。
「この城、気持ち悪いじゃが」
「何がだ?確かに異様だけど、たまたま敵が出払ってるって可能性もあるんじゃないか?」
「城全体に闇魔法の匂いがぷんぷんするんじゃよ」
「四属性魔法は闇魔法に弱いからな・・・、白魔法の出番かな?リタ」
「ふぇ?無理無理無理無理むりぃ。魔王レベルの闇魔法に対抗できるスペル覚えてないわよ」
闇魔法は四属性魔法に強く、白魔法は闇魔法は強く、四属性魔法は白魔法に強いという法則がある。
ただそれは、全ての使い手が同じレベル、同等の威力のスペルだった場合の話だ。
仮にリタが魔王に対抗できるのなら、とっくに一等聖女になっている。
「その気持ち悪いのは危ない感じなの?」
「そこまではしないんじゃよ・・・むしろ温かい?」
「意味わからんぞ」
「私もじゃ」
「マリーネもかよ」
結局のところ全員がその意味を理解できなくて棚上げした。
それから、歩き続けて半日ほど経った頃に巨大な扉の前にたどり着く。
ここでさらなる問題が上がった。それは、俺たちは一度たりとも階段やスロープを使っていないという事だ。
それはつまり、ここはまだ一階なのだから、この扉の部屋にいるのは魔王ではなく、階層ボスとか幹部のような敵がいるのだろうと勝手に予想した。
「きっと手ごわい相手に違いない。勝ち目がなさそうなら逃げよう」
なんとも後ろ向きな発言ではあるが、魔王城で一戦でもしたなら面目は立つというものだ。全滅しては元も子もない。死ねばそれまでなのだ。
恐る恐る扉を押すと、それは重い音を鳴らしながら徐々に開いてゆく。
覗き込むと中は薄暗く良く見えないが、誰かが居る気配だけはする。
その威圧感は凄まじく、とてもじゃないが勝てる気がしない。
それは肌をヒリヒリと刺激するような感覚が教えてくれた。
薄暗い部屋の中で目を凝らした。
誰かが居る。
大柄な人影はこちらに気づいてないように思えた。
じりじりと部屋に入り、姿を確認しようとした。
その時、大きな音を立てて扉が閉まる。
「しまった!」
「閉まったのう」
「ダジャレじゃねえよ!」
そんなバカなことを言っている間に人影が動き出し、不敵に笑いだす。
「フッハッハッハ。よく来たな、勇者一行よ」
そのセリフが終わると同時に、部屋が昼間と思える程に明るくなる。
「「「「目がァ!!」」」」
唐突な照明に、全員が目くらましを喰らった格好となった。
少しの時間を置いて視界が戻ると、そこには風貌からして絶望的な敵だと気づく。
(あ・・・これ、ラスボスだ。ダメなやつだな、うん)
「いやいや、儂らは勇者ではないぞ。ただの冒険者じゃ」
マリーネのツッコミに一瞬の沈黙が場を支配した。
そしてこのあと、束の間のトークタイムが設けられた。
─────────────────────────────────────
勇者でもなんでもない冒険者一行は魔王(ネタバレ)と対峙する。
死ねば終わりのこの世界で、それは絶望でしかなかったのだ。(ばーん)
***
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この話、ギャグ路線ではないんです。信じてください。
魔法体系の解説は近いうちに本編中に入れます。
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