精剣使い ~炎と風の誓約~

tai-bo

第1話 最悪な出会い!

「あーあ、気持ちいいなー」


 穏やかな木漏れ日が差し込む森の仲。穏やかな風が頬を撫で、どこからか小鳥のさえずる声が聞こえてくる。そんな自然を満喫してると、


 ちゃぽん。


 水が垂れたような音が聞こえてきた。


「近くに川でも流れてるのかな」


 気になったので、獣道を外れて茂みを抜けて水の音がしたところに向かった。樹木をかき分けるように歩くと開けた場所に湖があった。そこの水は、中まで透き通っていてきれいな水だとわかる。ちょうど歩き疲れていたからのどを潤すために手にすくって飲む。


「あー、うめー!! 冷たい水がのどを潤して生き返る気分だわー」


「・・・・・・あんた、なにしてるの」

「んっ!?」


 声がした方を見ると、湖の水面にハヤテを見ている女の子が立ち尽くしている。しかも全裸だ。見た目はたぶんかわいいと思う。たぶんというのは今までほかの人、特に女の人間にかかわることがなかったため一般的な基準がわからないからだ。それにしても目鼻が綺麗に整えられていて両目の紅玉るびーの目に引き付けられる。そして、プルンとした桜色の唇。今にも折れてしまうんじゃないかと思わせる細い身体。そこに張り付くように濡れた燃えるような真紅の髪が申し訳なさそうに胸を隠している。


「・・・・・・」


 あまりに綺麗だったためまじまじと見つめてしまった。それに何で素っ裸なんだ。今なら女神だと言われても信じてしまうかもしれない。

 女の子は、目をパチパチして髪をかき上げてる状態で固まっている。その髪の毛から滴り落ちる音で我に返って何か言う前に女の子の悲鳴が上がる。


「キャァァァァァァァァァッ!!!!!」


 あまりの悲鳴に樹木に止まってた小鳥が一斉に飛び立った。


「ま、待ってくれ。これは事故みたいなもんだ。まさかこんなところで水浴びをしてるとは思わず」

「言い訳は聞かないわ。事故と言いながら全身舐めまわすように見てたじゃない」

「それはすまない。君のあられもない姿に思わず見とれてしまったんだ」

「えっ!?見惚れ――」


 しまった。思わず口から出てしまった。

 恐る恐る女の子を見ると、顔を真っ赤にして満更でもなさそうだ。これならいけると調子に乗ったのがいけなかった。

 この時、失念していたのだ。口はわざわいの元だということを・・・・・・


「事故とはいえ、君のあられもない姿を見てしまったことはすまなかった。だが、安心してくれ。俺はガキに欲情するような変態ではないから」


 俺の言葉を聞いた女の子が下を向いている。


「どうかしたか?」

「――十六」

「えっ! 何だって」

「だから私はもう十六歳よ」

「同い年だったのか。その体系で」


 俺は指をさして驚いた。女の子は俺の指がさしてるところを見て視線が自分の胸に向く。


「誰がちっぱいだー!!!」


 女の子の怒りに呼応するように樹木がざわつく。


「誰もそこまで言ってない」

「指差してる地点で一緒でしょうが―!!! もう許さない」


 女の子の周りから炎のようなものがほとばしっている。しかもさっきまで湖だったのに沸騰したようにボコボコしている。


(まさか、精霊使いか。だとすると属性はおそらく・・・・・・)


 炎の火球が飛んでくる。俺はそれを難なくよける。その結果、木が燃えたので慌てて消化する。

 俺は改めて女の子を見る。やはり属性は炎属性か。この世界には魔力の源・マナというものが存在する。そして、そのマナは世界のどこかにあるという世界樹から発生していると言われている。この世界樹は精霊の森につながっていると言われているがその姿を見たものはいない。だけど、精霊は世界のあっちこち位に存在していて、その精霊と契約したものが精霊使いだ。だが、上位の精霊になるほど一生で出会えるかどうかも分からない。そのせいで精霊使い達が必死に探していたりもする。

女の子は真紅の髪だし、怒りに任せて炎のようなものがちらついたから想像がついた。まだ、ちゃんと制御できてない証拠だ。見たまんまだな。


「おい、やめろ。それ以上やるとこの場所が大惨事になるぞ」

「うるさい!うるさい!!」


 女の子は怒りに任せて火の玉を周りにいくつも出す。さっきより数が多い。この子は魔力量だけは相当なもんだ。


「聞く耳持たずか。仕方ない。力を借りるぞ」

『相変わらずトラブルに巻き込まれるわね』

「そういうなって」


 頭の中に声が響いたのと同時に俺の手に剣が収まる。


「へ~、それがあなたの武器。まさかあなたも精霊使いなんてね。男の精霊使いなんて初めて見たわ。だけど、それで勝てるとは思わないことね」


 火球が飛んできたのを切り裂く


「そんな・・・・・・見たところあなたは風属性のはず」


 俺の周りに風がまとわりついていたら分かるか。


「よくわかったな」

「だったら風属性は炎属性に対して相性は炎属性の威力を上げてしまうはずなのに何で」

「それは簡単だ。俺とお前では実力差がありすぎるんだよ」

「そ、そんなの認めない!」


 女の子から火球が一気に俺に襲い掛かる。

 俺は居合切りの要領で剣を素早く振るうと、空気を切り裂いて火球を消し去ると、女の子の後ろにある樹木も切り裂いた。しかも、女の子の頬を少しかすめたのか血が垂れている。

 少しやりすぎたか。


「だ、大丈夫か」


 女の子の返事がない。その表情がうつむいててよく見えない。さすがに心配になって近づこうとしたところで、

 俺の剣に炎のむちが絡みつく。


「油断したわね。これでさっきみたいな芸当はできないわ」


 どうやら形態変化で炎の鞭を作ったらしい。本当にこの子は才能があるな。これは開花したらとんでもない逸材になるかもしれない。


 俺は炎の鞭を掴むと、力任せに引っ張る。


「素手で! うそでしょっ!! キャァァァァァァァァァッ」


 女の子は引っ張られた拍子で炎の鞭から手を放して尻餅をつく。俺は、炎の鞭を剣から取ると投げ捨てる。そして、一歩一歩女の子に近づいていく。


「ひ、こないで」


 戦意喪失したのか炎の鞭が消える。

 女の子は腰が抜けたのか立ち上がれないようだ。俺は足元まで行くと、


「相応な覚悟はできてるな」

「こ、殺さないで。私はまだやることがあるんだから!!」


俺が、無言で手を動かすと、女子の目が覚悟を決めたように閉じる。


「これで勘弁してやる」

「えっ!?」


 次の瞬間、バチンッと音が響いた。


「痛っ!!」


 俺はデコピンをおみまいした。


「えぅ、あの・・・・・・」


 女の子は訳も分からず戸惑っている。


「あ、その傷つけるつもりはなかったんだ。悪かったな」


 俺は手を女の子の顔の傷の場所に伸ばす。

 女の子はビクッと反応する。


「じっとしていろ」


 手の周りに緑色の淡い光が集まると女の子の顔の傷がなくなっていく。


「これって、回復魔法」

「ああ、これぐらいの回復魔法は使えるからな」

「さてっと、立てるか」


 俺が手を差し出すと女の子は、


「馬鹿にしないで」


 女の子は無理に立とうとして足にうまく力が入らないのかバランスを崩してしま

う。


「おい、無理するな」


 咄嗟に女の子の手をつかもうとするが、逆に引っ張られる形になってこけてしまった。


「う、ん・・・・・・」

「大丈夫か?」


 むにゅん


「あん・・・・・・」


 何だ。この柔らかい感触は。


 むにゅ、もにゅ・・・・・・


 手のひらに収まる安心感。


「ひゃ、や、やめ・・・・・・」


 女の子から艶めかしい声が。


 俺はどうしたんだと視線を下に向けると、何と女の子の胸をわしづかみにしていた。慌てて手を離すと、


(やばい、どうしよう)


 動揺して冷や汗がタラタラだ。


 女子はむくりと起き上がると、無言で表情がうかがえない。


「あの・・・・・・」


 声を掛けようとしたら、


「こ、この変態!!!」


 女の子の平打ちを思わずよけてしまう。


「何で避けるのよ。ぶたれなさい」

「確かにもんでしまったのは謝るが、もとはと言えばお前が無理に動くから」

「わ、私の胸をもんでおいて言いたいことはそれだけ。ここで叫んで人を呼ぶわよ。そうしたら分が悪いのはあなたよ」


 なんか勝ち誇った顔をしてるところ悪いけど、


「叫ぶのは無駄だと思うぞ」

「何でよ」

「見てみろよ。さっきまであんなに派手にぶっ放していたのに未だに誰も来ないじゃないか。あんだけ騒いでたらいい加減誰か来てもいいと思わないか。こんな森に人がいればだけど」

「そういえばそうね」

「俺が結界で音を外に漏れないようにしてるってのもあるけどな」


 女のが睨むように見てくる。


「そんなににらむなって。かわいい顔が台無しだぞ」

「かわっ――そんなこと言ったって誤魔化せれないわよ」

「はぁ~、しかたない」


 俺は服を脱ぎ始める。


「え、ちょっ、何してるの!!!」

「いや、これでも悪いとは思ってるんだ。お詫びとして俺の裸も見たらイーブンかなって」

「な、何考えてるの!」


 女の子は顔を真っ赤にして両手で目をふさぐ。


「指の隙間からガン見してるのバレてるぞ」

「うぐっ」

「このむっつりスケベめ」


 さっきの腹いせに言ってやった。


「むっつりじゃないもん」


 女の子は涙目で反論する。さすがにからかいすぎたか。

 俺は近くに置いてあったバスタオルを女の子にかける。


「さすがに目のやり場に困る」

「いまさら遅いんだから」


 女の子は身体を隠しながら木の陰に着替えに行った。


『あなた、女難の相が出てるわよ』

「よしてくれよ」


 なんか今日は疲れた。俺は近くにあった木に持たれかけるように座ると、空を見上げながら小鳥のさえずる声に耳を傾けながら現実逃避するのだった。

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