「生きていてよかった」ことの変奏
- ★★★ Excellent!!!
魅力的なキャラクターに彩られたオカルト連作短編です。
主人公である上野の入学年度だけでも、
底抜けの明るさの裏に罪と呪いを抱える上野、
粗暴さの奥に「普通」にふるまうことへの臆病さを隠す神田、
圧倒的パワーで怪異をねじ伏せるがどこか抜けてる恵比寿、
超人的で底の見えない「化け物」高校生である秋葉部長、
分け隔てない陽キャコミュ力お化けだが好奇心に呪われている高田、
命知らずになれない部員の模範となる毒舌常識人の馬場、
オカルト優等生としての自負から同級生の上野に愛憎を抱く目黒、
優れた知識と観察眼をもちつつも超絶ビビリな五反田、
粗忽で小物だが憎めない、愛すべきおもしれー女枠の田端、
300話くらい呼んでも何もわからない、存在がオカルトみたいな大崎
などが登場します。サザエさん時空ではないので、物語が進むと新入生も入ってきます。
短編やエピソード毎に一人称視点のキャラクターが変化するのですが、その書き分けがとても自然で、内面描写や関係性およびその変化を楽しむことができます。
キャラクター同士の関係性、好奇心や呪いとの付き合い方、因果応報などの料理の仕方は非常にバラエティ豊かであり、概要に「作者の趣味・性癖全開」とはありますが、作者の趣味の似通った展開に延々と付き合わされている、というようなストレスは感じません。
個人的には「生きていてよかった」とはどういうことか、がさまざまな側面から描かれている点が印象的でした。
各短編は、著名既存ホラー・オカルト作品の換骨奪胎ではなく、作者の創作怪談をベースに展開していきます。神話・伝承由来のモチーフが用いられることも多く、ライトな読み味でありつつも、骨太で奥行きのある世界観を感じられます。
ホラー・オカルト的題材の設定が、短編毎の人物の掘り下げ・変化を盛り上げるよう緻密に(例えば、怪異の成り立ちとキャラクターの歪みの原因が対を成すように)練られている点も、キャラクターを楽しむ作品として優れていると思います。
ライトホラーではありますが怪異はちゃんと殺しに来ており、祓い屋の能力も通じたり通じなかったり緊張感があります。
「ゆるコワ!」や「師匠シリーズ」といったエンタメオカルト連作短編作品を好む人にはとくにオススメできるでしょう。
以上、300話あたりまで読んでの感想です。ちなみに私は秋葉部長と田端が好きです。