第4話 失われた世界。その2

 光の矢は、二本三本と魔王の胸に突き刺さる。


 面白いことに、矢の効果なのか、魔王の鎧が壊れ始める。

「ぐっがあ」

 魔王さん声にならない声を上げる。


 いつの間にか恭子ちゃんも復活して、詠唱をしてる。

 よろよろと、小山君も立ち上がり、もう一度剣が光り始める。


 魔王さん、胸に刺さった光の矢を、まとめて掴み引っこ抜く。

「あれは、痛そうだ」

「うん」

 淑子は、甘いものを食べたから、しょっぱいポテトに移行したようだ。


 尾川君がめげることなく、光の矢をどんどんと撃ち込んでいく。

「魔王さん、丈夫だなあ」

 なんとなく、見ていると力が入り、肩がこってくる。


 などと言っていると、小山君が再び聖剣を振り下ろす。

 また剣ではじかれ……?

「おっ、魔王の剣が崩れてきている。押し込んでいるぞ。これでいけるのか?」

 そこへとどめのように、恭子ちゃんの撃った光の槍っぽいのが、魔王の胸を突き通す。


「おおっ、やった」

 兵士達もおおーという感じで歓声を上げる。いや戦場だから鬨の声を上げるかな?


 でもまあ、喜んだときには、ピンチになるんだよね。


 俺達の周りを含めて、ファイヤーニードルっぽいのが着弾をしてくる。


 ドラゴン一匹と、あれは四人居る。

 四天王という奴だろうか?

 テンプレ万歳。


「淑子。敵に仲間が増えたぞ」

 そう言うと、彼女はすくっと立ち上がる。

「そうね。敵の増援よぉー。がんばれー。これで良し」

 声をかけて椅子に座る。


 向こうに居る兵士には、明らかな落胆が見える。


 四天王は四体? 人。

 クマみたいなのと、狼?

 それと、頭の側面に角が生えた女の人。

 蛇っぽいけど手足がある女の人。


 さっきから、角が生えた女の人が、適当というかランダムに炎の玉を撃ってくる。


 蛇さんは、魔王を守りに行く。

 そして空にいるドラゴンさんが、なかなか器用にブレスを吹く。

 ナパームぽい粘りを持った炎。


 あのプラスチックが燃えて、ぽてぽて落ちる感じの炎。


 シールドを張ったが、微妙に熱い。

 あっ、淑子の機嫌が悪くなってきた。


「勇者君も頑張っているけれど、五人と一匹は辛いか」



「初っぱなに、大技を使ったのがキツい」

「ああ、俺も魔力がやばい。恭子はどうだ?」

「キツい。大体どうしていきなり魔王戦なのよ。鍛えている途中だったのに」

 そう言って、少し離れた所で、パイプチェアに座り。見物をしている二人を見る。


「ああもう」

 光の槍が四天王達に飛んで行く。

 尾川君も矢を放つ。


 だが躱されたり剣で払われたり、なかなか致命傷にならない。

「もううっ」

 とうとう、恭子ちゃんの目に涙が浮かび始めた頃。


 淑子が立った。

「飽きた。ちょっと行ってくるけれど、魔力の流れと、効率的な属性変換の仕方を見ていて」

 そう言うと、その場で左手を軽く振る。


 その瞬間。風魔法ではなく、空間がズレた。

 世界は、あわてて空間を修正するが、範囲内に居たものはすべて切断された。


 当然、ドラゴンは真二つ。


 落下してきたドラゴンに戦場が一瞬止まる。

 その瞬間に、蛇ごと魔王を切り裂く。

 今度は空気。

 極薄の真空でできた円盤。


 そして、残りの四天王は、高圧の細い水が撃ち出されて、触れたものを切っていく。

 そのまま出すと拡散するため、水流が回転している芸の細かさ。


 兵達が、ドラゴン落下に驚き。

 勇者君達も疲れの中。ドラゴンの落下に、何が起こったのかと焦っていたそのわずかな瞬間。

 敵の殲滅が終わってしまった。


「水流は、兵達が触れないためか?」

「そう。空間とか風は、自分が思ったより、以外と攻撃範囲が広がってしまうときがあるのよ。シビアなときは物理を優先的に使う」

「なるほどなあ。何事もお勉強だな。しかし魔王は死んだのに、勇者くん達、戻る気配はないな」

「そりゃテンプレよ。あの兵達は、疲れ切った勇者君を切れるかなぁ。本人達も息絶え絶えみたいだけど」


 戦闘時間は、羊羹とポテチだからトータル三十分くらいか?

 だけど緊張の中で戦闘、消耗は激しいはず。


「おおい。王様には、来たときなんと言われた? 魔王を倒せば帰れるってか?」


「へあっ。おわった? なんで」

 恭子は息が切れて、淑子の戦闘を見ていなかった。


 尾川は狙っていた蛇が、いきなり切られてバラバラになった。

「終わったのか。すごいな」

 そう言って淑子を見つめる。



 小山は剣を支えにして、息を整えているが、その目はきょろきょろと、四天王だった者達を見ている。


 ゆったりと、パイプチェアに戻り、座り込む淑子。

「彼女がこれを……」

 圧倒的強さ。

 あれだけ苦労した奴らを、瞬殺。


 そうこの光景を見たおかげで、兵達は動けなかった。

『魔王亡き後。脅威となる勇者は、魔王戦の疲れがあるだろう、ゆっくりと休ませてやるがいい』

 

 王の言葉。

 意味は、考えなくてもわかる。

 そのため親しくしつつも、情を通わすことのないよう留意してきた。


 だが、勇者よりも圧倒的な脅威。

 この二人。勇者の話によると、たまたまこの世界に来たと言っているらしい。

 つまり世界を自由に渡る、神のごとき存在。


 そんな者が殺せるものか?

 そう思いながらも、自身が握る剣を見つめる。


 幾多の戦いの中で、欠けもあり、刀身にゆがみも出ている。

 この剣で、一瞬でドラゴンを真っ二つにした…… 人間。

 あの二人。そもそも人なのか?


 兵は、王からの命令なのに、行動を起こすことができなかった。

 倒れている一名を除き、六名とも。ただ立ち尽くす。


 濃密な血の匂いが漂う街道で……

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