第20話 風邪②

宇佐美が何故かリビングのソファで寝ているのを見て、宇佐美の母親がすぐに起こしに行った。


「茜…ちゃんと部屋で寝て」

「うん……」


いつものしっかりした感じでは無く、言われるがまま部屋に連れていかれる宇佐美に少し癒されながらも、俺は買ってきた物を冷蔵庫に入れていく。


丁度入れ終わった所で戻ってきた宇佐美の母親が、夕食の準備をし始める。

「調味料とかあるもの使っちゃって良いかしら?」

「あ、どんどん気にせず使っちゃってください!」

「ありがとう。ゆっくりしてて良いからね」

「こちらこそ、ありがとうございます。自分の部屋に居るので、何かあったら気軽に呼んでください」


そう言って自分の部屋で作業をしていると気づけばご飯が出来たようで、ノックをして伝えに来てくれた。


「調味料の場所とか分かりました?」

「ええ、まとめて置いてあったから分かりやすかったわ」

「すごいいい匂いしますね…鶏…ですか?」

「そう、正解よ。お皿に入れるから座って待ってて」

「分かりました」


鶏ガラの香りが俺の食欲を唆る。そしてリビングの椅子に座っていると、すぐにうどんが出てくる。


鶏ガラのスープにはほんのりと生姜の香りがしていて、とても美味しそうだ…


「茜の部屋にも持って行って良いかしら?」

「どうぞどうぞ!!全然持って行ってください」

「ありがとう」


そう言って宇佐美の部屋にうどんを持って行った。すぐにまた戻ってきて、俺の目の前にある椅子に座って一緒にご飯を食べ始める。


いつもは宇佐美が座っている場所に、今は宇佐美の母親が座っている。


「ん!!すごい美味しいです」

うどんを食べてみると、鶏ガラの香りと生姜のポカポカとさせるのがとても美味しい。

「ありがとう。茜が風邪を引いた時はよく作ってるの」


「季節の変わり目だから梅野君も気をつけてね。もしかしたら茜の風邪が伝染るかもしれないし」

「伝染っちゃうのはまぁしょうがないと思います。一緒に住んでるので」

「そうね…先に謝っておくわ、ごめんなさい」

「いや!!マジで気にしなくて良いですよ!誰しも1回はこういう事あると思いますし、ホントに気にしなくて良いです!」

「ありがとう」


そう言ってまたうどんを食べていると、宇佐美の母親が一言伝えてくる。

「あまり長居するのも良くないと思うし、ご飯食べて少ししたら私は帰るわね」

「そうですか、わかりました」


うどんなので、あまり食べる時間もかからずに食べ終わり、俺が皿を洗っている間に宇佐美の母親は宇佐美の部屋で少し面倒を見ている様だ。


洗う皿の量もあまり多くはなかったので、すぐに終わってリビングのソファに座っていると、宇佐美の母親が出てきた。


「久しぶりに茜と少しゆっくり話が出来たわ」

「それは良かったです。また来たかったらいつでも言ってください」

「ありがとう」


そう言って宇佐美の母親は置いてあった自分の荷物を持って玄関へ向かい始めた。


「あ、もう帰りますか?」

「えぇ…茜とも話はできたし。茜以外の事でも何か困った事があったら気軽に連絡してくれて良いからね」

「ありがとうございます。あ、駅まで送りますよ」

「ふふ、気にしなくて大丈夫よ。本当に」

「そう…ですか」


そう言ってヒールを履いて立ち上がった。微笑んだ宇佐美の母親の顔は、宇佐美を彷彿とさせるような可愛らしさの残る顔だった。母親なのだから当然なのかもしれないが、ふとした表情や仕草が宇佐美と似ている所がある。


「今日はありがとうね。またね梅野君」

そう言って宇佐美の母親は俺に向けて手を振って、玄関を開けて帰って行った。


30秒程してから鍵を閉めてリビングに戻ると、宇佐美の母親の良い匂いが残っている。やはり美人で、所作も見惚れてしまう様な感じだった。料理もテキパキと素早く行っていたのが、最初の少し見ていただけでもわかる。


そして俺は風邪が移ると分かっては居ながらも、宇佐美の部屋をノックして入っていく。


「宇佐美、大丈夫?」

「しょ……梅…うん…だいじょぶ…」

「熱は測った?」

「さっきお母さんと一緒に居る時に測った…39.4だった」

「まだあんまり下がってないか…薬も飲んだ?」

「んぅ……」

「冷えピタは?」

「もうつめたくない…」

「分かった、持ってくるわ」


そう言ってすぐに持ってきて宇佐美に渡そうとすると、宇佐美の手が布団から出てこない。


「貼って…」

「ん?」


小さな声で聞こえてきたそれは、はっきりと俺の耳に届いている。それでも一瞬戸惑っていると再び同じ言葉が聞こえてくる。


「貼って……」

「っはぁ……分かった」

俺は詰まった息を吐いて、宇佐美に既に貼られているぬるくなった冷えピタを取って、新しい冷えピタを宇佐美の前髪を上げながらもおでこに貼る…


「つめたくてきもちぃ…」

「そっか良かったわ…なんかあったらスマホにメッセ送るでも良いから気軽に呼んで」

「うん…ありぁと…」

「お風呂は入る?」

「ん…入る…」

「すぐに入る?それとも後で入る?」

「もうすこしあとで…」

「分かった」


俺は風邪が伝染らないように早めに部屋を出て、リビングのソファにダイブする。さっきの一瞬で何故かめちゃくちゃ疲労感が凄い。


逃げるかのようにスマホを開くと、メッセージが来ていたので確認すると宇佐美の母親からだった。


『言うの忘れてたけど、茜は高熱出すと甘えたがりになるから気をつけてね』

(もう少し早く言って…)


俺はそのまま少し休憩してから、さっきの事を頭から無くしに行く様にアニメを見始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る