第16話 体育祭の打ち上げ

「みんな集まったね〜じゃあ行こっか」

竹内がそう言って予約した店に向かう。華々した女子5人と違い、俺は1番後ろでみんなの後をついて行く。こんな女子の中は歩けねぇ…


「てか、そもそも樋口と宇佐美はどういう経緯で、竹内とかに誘われたの」

ふと別のクラスで竹内達と関係があるとは言え、なぜ誘われたのか少し気になったので俺が聞いてみると、樋口がすぐに答えてくれる。


「あ〜なんか打ち上げの話してる時に、うちと茜がたまたま近くに居たからその時に声かけてくれた感じかな」

「あーそういう事ね」


相変わらずその場に居たから誘うというのも、中々竹内達の陽キャ度合いが凄いが…それにしても今日の皆は学校とは違う雰囲気でとても可愛い。


橘はこの女子5人の中で1番背が高く、足も長いモデルの様なスタイルなのだが、それを更に活かすような黒のワイドパンツと、袖の部分が肘まで来るような大きめの白Tシャツをインして、金色のネックレスを首から下げている。髪型はいつもと同じ様に下ろしているが、ふわふわと巻かれている。


伊織も髪型はいつもと同じでゆるふわパーマなのだが、白のロングスカートに、足元はそれに合わせたような白のサンダルで、そこから見える足の爪には赤色のネイル、そして上は紺色のダブルフリルのブラウスだ。


これも伊織らしい様な感じだが、唇には赤色のリップが塗ってありどこかいつもより大人っぽく感じる。


竹内は髪型がゆるふわポニーテール。灰色のガウチョパンツに白のノースリーブニット。そしてネックレスを付けている。そして唇に薄いピンクのリップを塗っている。


雰囲気はいつも見ているふわふわした竹内なのだが、ノースリーブにポニーテールという学校の制服とは違って、肌の露出が多い分セクシーに感じる。


そして樋口は他の3人のゆるいズボンの感じとは違い、細く伸びた足にぴっちりとくっつく様な黒のスキニーパンツに、黒の半袖シャツブラウス。


黒コーデなのでクールに感じるが、第1ボタンが開けてあり、そこから少し見える鎖骨と白い肌が、どこかセクシーに感じる。


そんな中今更だが、宇佐美のコーデは半袖の白に近い水色ワンピース。明るい髪色と合う色で、少し大人な雰囲気の人達よりは、可愛い寄りのコーデだ。髪も巻いてあり、ふわふわとした髪型。


各々が別の服を着ているとは言え雰囲気はかなりあり、1番後ろを歩いているのもあって通り過ぎる人たちの視線が自然と集まっているのを感じる。気の所為なのかもしれないが…


「てか、竹内と橘は上が思いっきり白の服だけど大丈夫?肉汁とかタレとか跳ねてシミになったりしそうな感じあるけど…」

「あ〜紙エプロン貰えるから、それ付けたら良いかな〜って思ってる。無くても気をつけて食べれば付かないかな〜って」

「あーまぁ確かに」


駅からは近いようで、あまり歩かずに5分程歩いた所で店に入る。すぐに店員さんがやってきた。


「19時に6人で予約した竹内です」

「あ、かしこまりました〜こちらの席どうぞ〜」


そう言って3席ずつの6人席に連れられる。俺が1番端の廊下側で左隣は宇佐美、そして更に左が樋口。そして対面が、左から伊織、竹内、橘だ。全員荷物を置いて一段落した後に、竹内と橘と伊織がドリンクバーに飲み物を先に取りに行く。


「樋口的に最近の宇佐美はどんな感じなの?」

「え!?」


宇佐美本人を間に挟みながらも樋口に聞いてみると、宇佐美の驚きの声が聞こえてきた。


「あ〜最近の茜はもうだいぶ馴染んでるし、男子とも割と話すようになってるよ」

「そっか、良かったわ」

「お待たせ〜うめちゃん達も行っていいよ〜」


すぐに竹内達が飲み物を持って戻ってきたので、俺と宇佐美と樋口が取りに行く。飲み物を自分の所に置いてから、トイレに行きたくなったので一言声をかけてトイレに向かう。


「ちょっとトイレ行くわ」


改めて思うが、なぜこのレベルの女子に囲まれながら焼肉を食うことになったのだろうか…席に居るだけで良い匂いがする。色んな人の香水やら柔軟剤やらの匂いがしてくる。


そんな事を思いながらもすぐに用を済ませて手を洗い、鏡で身だしなみをチェックしてから席に戻る。そして席に戻ると何故か伊織が、どす黒い液体の入ったコップを竹内に渡して、竹内が俺の前に持ってくる。

「何…?」

「梅ちゃん、飲んでみて!!」


明らかに色んな物を混ぜられた液体。小学生がやるような、ドリンクバーの色んな飲み物を混ぜたヤツだ…ていうかこれ、明らかに誰か飲んだ後の量なんですけど…


その飲み物はコップの半分より少し下の微妙な量。入れるならもう少しあっただろうし、少な目にしては微妙に多い。


(間接キスになりそうだな)とか思いながらも、俺は顔や態度に出す事は無く、嫌そうにしながら目の前に出された、何か分からない物が入ったコップを持って口をつけて少し飲んでみる。


その液体が口に入るなり、まずオレンジの香り、そしてメロンソーダの香りが鼻を抜ける。そして味はコーラ甘みと麦茶の舌に残る味がかなり強い…コーラの一瞬の甘みの後に、麦茶が舌を塗り替えてくる。


「やべぇ…何混ぜたのこれ…」

「あはは、メロンソーダとオレンジジュースとコーラと麦茶!!」

(いや当たってたし…)


俺の不味そうな顔を見るなり、伊織や竹内、樋口はめちゃくちゃ愉悦に浸ってやがる。竹内はふわふわしてるけど、こういうの案外楽しむタイプだ…宇佐美と橘も笑っては居るが、心配の表情も見て取れるいつもの優しい2人だ。


ていうかこれは誰か飲んだ後なのか凄く気になる…が、ここは何も言わないでおこう。


そしてすぐに肉も届き、焼きながら雑談をし始める。


「みんな彼氏とか居ないんだっけ…?」

伊織がそう聞くと全員お互いの顔を見合わせて、彼氏持ちが居ないか見ている。この中の1人くらいは彼氏が居ても不思議では無い可愛さなのだが、今は全員フリーなようだ。


というかコイツ男1人しか居ない状況で、恋バナし始めやがった。


「てか、樋口とか彼氏居そうだけど居ないの?」

「居ないよ。なんか良い感じの人居なくてさ〜まだ誰にも告られてないし」


宇佐美は樋口の言葉を聞いてすぐに興味津々に質問し始めた。

「それって奈央は誰かに告白されたら付き合うの?」

「いや、ん〜人に寄るかも。コイツは無理ってなったら断るけど、基本的には付き合うよ」

「へ〜じゃあ例えば俺が付き合ってって言ったら付き合えるの?」

「ん?まぁ梅野なら全然良いよ」

「アリなのか…すげぇな…」

「え…!!あ、アリなんだね…奈央は…」


樋口の恋愛観に俺と宇佐美は驚きながらも周りを見てみると、他の女子はあまり驚いている様子は無く、そういった価値観はあまり不思議では無いようだ。


宇佐美は俺と似ているのか、俺と少し似た反応をしていた。竹内と伊織と橘は樋口と似ているのかあまり驚いていない…まぁこの竹内と伊織はなんか納得だわ…


やはり樋口の恋愛観は、俺とはあまり似ていないようだ。付き合うというハードルは俺にとってかなり高い物になっている。多分これは俺が今まで誰とも付き合った事が無いからだ…今までの人生で彼女が出来た事が無いと、中学の頃から何となく告白するハードルも上がり続けている。これは大人になればなる程、さらにハードルは上がるものだと何となく認識している。


正直俺は高校1年の時には1人くらいと付き合いたい。人は選んでしまうが、少し可愛い女子に告白されたら断れず付き合うかもしれない。


でも付き合ったとして宇佐美と一緒に暮らしている状況で、俺の家には彼女は連れて来れないし、その状態が続くと彼女にも不信感を与えてしまうかもしれない。


というか彼女以外の妹や姉でもない同い年の女子と同じ家で暮らしている時点で、付き合うべきではない気がするが…


「てか樋口はマジで気づいたら彼氏出来てそうな感じあるな。あと伊織も」

「え、あたし!?急に飛んできたからびっくりした〜」

「伊織もなんかいつの間にか彼氏出来てて、彼氏とデート行ってくるわ〜とか言いそう」

「え〜あたしそんなイメージなの?」


伊織はやっぱりどこかギャルな感じがあるので、どうしてもそういうイメージが湧いてしまう。


「伊織は彼氏居た事無いの?」

「いやまぁ…あるけどさぁ」

「なんか付き合った人数が多そうだなっていう、俺の勝手な偏見」

「私、梅ちゃんが思ってるより付き合った人数少ないと思うよ〜?ちゃんと付き合った事あるの1人だけだし」


確かに思ったより少なかった。俺の中では3人くらい居そうだなという偏見があったので、1人は確かに少ない。


「ちゃんとってどういう事?なんか有耶無耶みたいな感じのあったん?」

「ま〜ね〜…なんか凄いしつこい人居て、色々あって〜みたいな感じ」

「伊織から告った事は無いの?」

「あ〜…まぁあるけど、振られちゃったんだよね」

「マジか、伊織が振られんの中々だな」


俺が素直に驚いていると、樋口が続いて質問を伊織に投げかける。


「相手どんな感じだったん?うち的には先輩とかかな〜って思うんだけど」

「え!!そう、1個上の先輩!!」

「でしょ〜?紗奈は年上好きそうだな〜って感じしたし」


「ほら、お肉焼けたよ〜」

そんな中いつもの様にマイペースな竹内が、トングで伊織や宇佐美に渡していく。

「あ、ありがと〜」

「ありがとう〜」


焼かれた肉が伊織と宇佐美に渡り、すぐに俺の仕切り皿にも置いてくれる。

「あざす」


各々「いただきます」を済ませて食べ始める。

伊織は肉を口に入れるなり、「美味しい〜!!」と喜んでいる。そしてそれに続くように、宇佐美も反応する。


少し食べ始めると、すぐに竹内が俺に質問をしてくる。


「そういえばうめちゃん、今度のテスト大丈夫そ〜?」

「え、あぁ…大丈夫っしょ!」

「ほんとに〜?」


ニヤニヤとこちらを見つめながらも、疑いの目で見てくる竹内の隣の橘は、ふふっと笑いながらも追加の槍を刺してくる。

「梅って勉強は出来ないもんね〜」

「ぐ…」

「私教えよっか?梅に教えれる位はある程度余裕あるけど」

「マジ?なら教えて欲しいわ」


せっかく勉強を教えて貰える機会なのだから、逃さない方が良いだろう。


「そっか、また連絡するね」

「ちょっと〜あたしも香織に教えて貰いたいんですけど〜」


伊織が混ぜてほしそうに言うと、すぐに竹内が「なら紗奈は私が教えよっか?」と答える。伊織はすぐにそれに反応して「ほんと!?教えて〜」と甘え始めた。


そういうとこですよ。俺がいつの間にか彼氏出来てそうって思ったの。


「最近うちバイト始めたんだけど、皆ってバイトとかしてんの?」

樋口がそう言いながら聞いてくると、伊織がすぐに答える。


「あたし、カフェでバイトしてる!」

そして伊織に続く様に、竹内も答える。

「わたしはファミレスでしてるよ〜」


「橘はバイトしてないの?」

橘は何となくしてそうなイメージがあるので聞いてみると、顔を横に振った。


「私は夏休み入ったら始めようかなって。もう少し落ち着いてからかなって思ってるよ」

「そっか、夏休みならそっちにも集中しやすいもんな」


相変わらず橘はしっかりしていて最早安心感がある。雑談をしながらも肉を食べていると、伊織が思いついたかの様に声を上げる。


「あ、ねぇ夏休みとかどっか行きたくない?」

「お〜いいね〜」

「どこ行く?」

「遊園地とか良くない?」

「あ、良い!!行きたい」


そうして案外あっさりと夏休みに遊園地等に行くのが決まった。その後も色々雑談をしているとあっという間に時間が来て、店を出る。


駅までの道も近いので、あまり会話は出来ずにすぐに到着する。


「あ、じゃあね〜茜、あと梅ちゃんも」

「じゃあ」


「うん、またね!みんな」

「んじゃ!」


宇佐美と俺以外の女子達は反対方向なので、もう1つ下の階に続くエスカレーターに乗って別れる。気づけばあっという間だった打ち上げも終わり、次に来るイベントはテストだろうか。それよりも橘に勉強を教えてもらうイベントがあるか。気づいたら2人きりでする事になっていた。


「宇佐美は今日の打ち上げ楽しかった?」

「ん…?うん!!めっちゃ楽しかったよ」

「そっか、なら良かった」


そう言いながら、目の前に止まった電車に乗り込む。来る時の電車とは違い、時間も夜の9時に近いので人はあまり居なかった。乗り込むと同時に、宇佐美の方から少し香水の匂いと、焼肉の匂いが混じった香りが俺の方に伝わってきた。


「やっぱ焼肉の匂いしちゃうな」

「あ、確かに」


宇佐美はそう言いながら俺の方に顔を寄せて匂いを嗅いできた。それなんか恥ずいからやめて欲しいんだけど…


その後は特に何事も無く帰宅して、荷物を置いた。今日1日、最初はどこか長く感じながらも、今思えば短く感じる。リビングや自分の部屋に行く前にお風呂のお湯を入れに行く。


ほっと一息ついてソファに溶けるように腰掛ける。


「ふふ、疲れたね今日。ごめんね、昼間は色々付き合わせちゃって」

「あ〜良いよ…お風呂は先入る?」

「あ〜…じゃあ私先に入ろうかな」


そう言って宇佐美は先にお風呂に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る