第7話 体育祭本番
土曜には宇佐美の母親と話をして、今日は2人でアニメを見たり、勉強を教えてもらったりした。
午前に勉強を教えてもらい、一緒に昼ご飯を作り、午後はまったりと宇佐美の好きな恋愛アニメを見た。宇佐美は意外にもハーレム系も好みらしく、男性が見るような少し過激なシーンがある作品も見ていた。
気まづくなるのでそのシーンの時には別の部屋に行ってたが…そして宇佐美が気まずいシーンを見ている間に伊織から連絡が来ていた。
『明日の放課後空いてる?』
『空いてるよ、バトン渡しの練習?』
『そ〜来るよね?』
『おけ〜行くわ』
『はーい、今何してたん?』
伊織の突然の話題の振りに少し戸惑ったが、宇佐美の事は隠して伝えた。
『アニメ見てる』
『いっつも見てんじゃん、アニメばっか見てリレー大丈夫そうなん?』
『なんやお母さんみたいな事言って、多分大丈夫。最近運動してるし』
『お母さんじゃないわ!!』
一応ちゃんと体育祭に向けて体を動かしては居る。昨日も帰ってきた後は、30分程ランニングをしているし、怪我もしない様にストレッチもした。
『優香とか香織とか、結構本気で勝ちたいっぽいから、あんましサボるとヤバいかもよ』
『まじか』
思わず伊織に送った文章と同じ言葉が口から出てしまった。確かに体育祭はなるべく勝ちたいし、負けるのも嫌なので最初から本気で走るつもりだったが、あの2人がそんなに本気だったとは知らなかった。
『ありがとう、教えてくれて。なるべく頑張るわ』
『は〜い』
『私もちょっと運動しないとヤバいかも』
『頑張れ』
俺は一言メッセージを送って、少し運動をする事に決めた。運動する服に着替える前に宇佐美に一言伝える。
「ちょっと運動してくるわ」
「ん、は〜い」
宇佐美は昨日のように寂しがることは無く、呑気にアニメを見ていた。昨日のように引き止めて欲しいという期待も少しあったが、もう大丈夫のようだ。あれ昨日だったよね?
俺は運動をする服に着替えて、ランニングをする。中学の頃は運動ばかりしていたので、まだ体は軽かった。体育祭が10月とかに開催されていたら、かなりやばかった気はする。俺は5km程走って、すぐに家に帰ってきた。
その後すぐにシャワーを浴びて、夜ご飯を食べた後はまた少し勉強をする。
「もう勉強疲れたんだけど…」
「ダメだよ、体育祭終わったらテスト来るし」
「その前に宇佐美が帰るかもだけどな。あ〜宇佐美帰んないでくれ〜宇佐美居なくなったら俺、色々やばいよ…」
少しセンシティブな話題なので、すぐに俺の悪い所を上げる。しかしそれも意味が無かったようで、少し寂しそうな表情をしていた。
「まだ居たかったら居て良いからね?宇佐美のお母さんが許可するかだけど」
俺がすぐに付け足すが、宇佐美の表情はあまり変わらなかった。これは今後、俺の方からも働きかけよう。
次の日また学校に行き教室に着くと、竹内が声をかけてきた。
「梅野〜今日の放課後練習するんだけど来れそう?」
「ん?あ〜おっけ〜行くわ」
昨日伊織が教えてくれたのもあり、すぐにOKをし、今日も放課後にバトン渡しの練習をした。
しかし、橘と木下のバトン渡しが少し上手くいっていなかった。お互い歩幅やタイミングが合わないのか、バトンを落とす事が多く、体育祭まで残り1週間を切ったが、ここに来て不安な要素が出来てきてしまった。
「大丈夫かな…私」
練習も終わり、何人かで駅に向かっている途中で橘は不安を漏らした。橘の少し弱気な所を見て、竹内や伊織がすぐ様フォローに入る。
「大丈夫だよ!!香織ならきっと上手くいくよ」
俺はなぜあんなに失敗していたのか少し考察して、少し見てみることにした。
「橘ちょっと後ろに腕出してみて、バトン受け取る時みたいに」
俺の提案を橘はすぐに実践して、腕を後ろに出した。俺は橘の受け取る時の手を見てすぐに理解した。
「橘これ、親指もっと開かないと」
「え?」
「親指と人差し指の方が距離近いんだわ。バトン渡す時木下は、手のひらにバトン押し出すけど、これだと親指の外側に当たって落ちてんじゃね?」
「あ〜…確かに…気づかなかった」
少し長引きそうな問題だったが、案外簡単に解決しそうだ。俺は橘にバトンを受け取る時の手を教える。
「手、思いっきりパーにして」
「はい」
「このまま腕後ろにして」
「はい!」
「前歩いて」
「はい!!」
「これでバトン掴んだらどう?」
そう言いながら俺は、前を歩きながら腕を後ろに出した橘の大きく開いた手のひらに、グーにした右手の拳をトンと置いてみる。すると反射的になのか俺の拳を掴んで、そのままこちらを振り向いた。
「ん?何これ……ちょ…なに!?」
橘が後ろを向いて状況を理解すると、思わず驚いてすぐに俺の拳を離し、どうしたら良いのか分からないのかとても戸惑っていた。
「いやバトンみたいなの無かったから、でも掴みやすかったでしょ?俺の拳でも簡単に掴んでたし」
「まぁ…確かに…」
「橘バレーやってるから、無意識に親指と人差し指の間を狭くしちゃうんじゃね?アタックとかする時そうでしょ?」
「それかもじゃん!!香織の問題解決したんじゃない?」
「そうだよ、香織これで大丈夫っしょ」
そんな感じで次のバトン渡しの練習では、発生した問題も解決し、体育祭の日が近づいてきていた。
◇ ◇ ◇
そして体育祭本番になった。体育祭本番の朝は、宇佐美も気合いが入っているのか、髪型もいつもと違っていた。鎖骨辺りまで伸びたセミロングの髪は編み込まれて、後ろで結ばれた編み込みポニーテールだった。
「それ、凄い可愛いな」
「えへ…そう?凄い頑張ったんだ〜」
いつもの下ろした髪型とは違い、首元が少し見えるという所もかなり良い。そして俺はいつも通りの髪型にセットして、忘れ物が無いかチェックをして学校へ向かう準備をする。そして一緒に学校へ向かった。
学校に着くといつもとは違う雰囲気で、自然と緊張感も高まってくる。珍しく俺と宇佐美は学校に着いても一緒に歩き、お互いの教室に入るまで一緒だった。
「じゃあ頑張ってね!」
「おう、そっちもな」
お互い一言声をかけあって別れ、教室に入ると既に竹内や橘、佐々木や田中なんかも来ていた。
「皆来んの早いな」
俺が皆の所に行きながら声をかけると、田中がすぐに答える。
「いや〜なんか緊張しちゃって、早めに行きたくなった」
確かに俺も前日は緊張して、すぐには寝付けなかった。伊織も同じようで共感してくる。
「分かる〜しかも結構保護者多いから、余計緊張しちゃうわ」
「てか、伊織の髪型すげぇ良いじゃん」
伊織の髪型はいつもはゆるふわパーマの髪型なのに、今日はハーフツインのお団子ヘアだった。やはり少しギャルな感じと、他より少し低めの身長もあってか凄く可愛い。
「でしょ〜!?優香にやってもらったんだ〜」
「めっちゃ可愛いね。てかやっぱ皆髪型違うんだな」
そう思って竹内と橘の髪型も見てみると、竹内は宇佐美と同じような編み込みのポニーテール。橘はいつもの大人な雰囲気とは違い、低めのお団子ヘアだった。慣れていないのか、それとも少し恥ずかしがっているのか分からないが、度々低い位置にあるお団子の髪を気にして、チラチラと見ながら触っている。いつもの少し大人な雰囲気の橘とのギャップで少し胸が締め付けられる様だった。こういうのは心臓に悪い。
「2人もめっちゃ似合ってるじゃん。ね?」
そう言いながら佐々木と田中にも話を振って、同調を求める。するとすぐに求めている物を出してくれる。
「分かる、なんかいつもと違う感じしてすげぇ良いわ。な?田中」
「いや俺もなんか髪型変えてくりゃ良かった〜」
「お前坊主じゃねぇか」
「あ!ねぇ、隣のクラス行ってみない?茜とかどんな髪型してるか気になる!!」
伊織が提案すると、すぐに竹内達はそれに応えて嵐のように隣のクラスへ行ってしまった。
「あいつらマジで行動力が……あれ?」
気づけば田中や佐々木達も居なかったので、俺も隣の1ーCに行く事にした。教室から出ると、隣の教室の前で竹内達のテンションが上がっていた。
「えヤバ!!茜これ自分でやったん!?」
「うん、自分でやったよ!!紗奈のも凄い可愛い!!」
やはり女子特有のこのノリは少しついていけていないのか、田中と佐々木は少し後ろから見ているだけだった。そんな2人に俺は話しかける。
「お前らも行くとか思ってなかったわ」
「いや、宇佐美の髪型見たくてさぁ…めっちゃ可愛いわ」
「分かるマジで良い」
宇佐美の教室の前ではしゃいでいると、時間になったのでみんな一斉に教室に戻る。そして準備を済ませていよいよ体育祭本番が始まる。
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