第42話 明日はきっと今日と違う1日⑩
「ねえ、ウメは覚悟ができているの」
「唐突に話が変わるね。何の覚悟?」
「今日、私達と一緒にいて、決めなくちゃいけないことが沢山できたでしょう」
「覚悟ね。
ニールには申し訳ないと思っているかな。冒険者を止めて、母親と3人の所帯を持ちたかったみたいだから。
多分ニールはパーティの功績で僕を処刑することはないだろうと高を括っているだろうが、これほどの政治力がある国がそんな甘い判断をしないだろう。
いつか、ポドを倒して、ディラの声を戻してあげたかったけど、異国でまた冒険者になって目立つこともできない。それでも、討伐隊が結成したら、こっそり参加させてもらうさ」
パーティを抜けたら、海を渡って武器屋で聞いた刀鍛冶の集落を訪れようと思っているが、ディラに伝えることはしなかった
「祖国に帰りたい?」
「ブンゲと戦う直前に諦めた」
「私と一緒で死ねなかったのね」
「ディラと一緒か、それは光栄だね。そして、ディラと出逢えて科学の会話ができて、生きていてよかったと思ったよ。
ディラ達には新しい明日が待っている。帝都に帰れば英雄として迎えられる。それを僕のせいで台無しにすることはできない。
望まずとも戦場に赴いた僕には、死ぬまで生きていればいいという気持ちしか無いのだよ。
でも、ニールやケトンから高評価を受けて、今は美女と入浴しているし、お腹もいっぱいだ。だから僕は明日は今日と違うどんな1日になるか楽しみにしている。
明日が来ればね」
ディラはただ僕を見つめるだけだった。僕は折角なので、ディラの美しい身体を眺めていた。昼間、ニールの行動でこの星の女性の特性は些か理解がある。ディラは長く付き合っている女性のように、僕の視線に恥じらうこともなかった
「儀式を初めようか」
ディラがそう告げた。水を介して言語が伝わる。”儀式”という表現は興味深い
「よろしくお願いします」
僕は言葉を発しないとディラには伝わらない。言葉の単語に情報データがあるとディラがいっていた。マクスウェルの魔物よろしく、単語から意味を変換しているようだ。この星ではマクスウエルの功績に相当する科学者は現れていない。魔物が見分ける粒子の情報も最近になって分かったことだ。
確かに般若心経を唱えて傷が回復するのだから、ディラの理屈を簡単に否定できない。それでも、この星で見てきた魔法は全て無詠唱だったので、僕とニールの回復魔法は異端魔法である。ハフニ族の集落を滅ぼしたポドも詠唱魔法の使い手だったとニールから聞いた。
僕も魔法を使ってディラの言葉を読み取っているらしい。ニールにやり方を聞いたら僕もできた。ニールのように人の心が読めるのではなく、ディラが差し出した言葉のみを受理解読しているだけではあるが
「儀式を行うに当たって、先にお願いだけど、私の指示に全て従って欲しいの」
「御意にございます。
「女王じゃないわよ」
これから儀式を行うのに不謹慎な言葉だったと反省した。
「殺される覚悟で臨みます」
「よろしい」
ディラは僕の前まで来ると、いきなり抱きついてきた。水面を揺らぐ音が激しく響く。ディラの肌、小刻みな鼓動を感じる。
首筋を軽く噛まれる。ディラの生温かい舌の感触が首を伝う。想像している儀式にうってつけだと思う。そして唇を重ねてきた。魔力の吸引なのだろう。儀式は多くの魔力を必要とするに違いない。
ディラは一度、唇を外し僕を凝視する。息を止めていたのだろうか、かなり息が荒い。声を奪われているディラだが、獣のように”ウ-ウー”という重くて細い声は出せるようだ。
もう一度唇を重ねると、今度は舌を潜り込ませてきた。発情期は40日先だと言っていた。賢者期でこれならば、発情期はどんな状態なのだろうと考えていたらおかしくなった。こんな状況でこんなことを考えることはまずない。大切な儀式を壊してはいけない、口づけに反応して臨界点に達しないようひたすらに我慢をした。殺される覚悟とは上手く表現したものだ。
「身体を洗いましょう」
息を乱したディラから伝わってくる。ディラの顔は高揚しているのか紅く火照っていた。僕はディラに手を引かれ湯船をでた。
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