第32話 貿易都市ヒフガ⑦

 店主は帰りの車を裏口に用意してくれて、それに乗り込むことにした。店主は待ち合わせに遅れることを知って、ラザに使者を出してくれたので、直接会場に向かうことになった。

 

 車は店主の息子が使用しているもので、その息子が同行くれた。車のほろには見覚えがある。ブンゲを討ったアントラセン村で同じ紋章を見かけたような気がする。


 息子は僕と同じくらいの歳で、背格好も似ている。精悍な顔つきで、彼もまた頭巾をしていた。店主に晩餐会なので正装に着替えなければならないと帰宿を急かしたが、引き留める代わりに息子の服を僕に都合してくれた。


 息子はリュードと名乗った。僕がこの国の言葉が話せないことと、金属が繋がっていれば僕の魔法で言葉を理解できることをニールがリュードに告げた。リュードは第2夫人の子供なので、ゆくゆくは帝都で自分の店を持つと言った。


 リュードとは会話のため黄金色の細線で繋いだ。金ではなく銅のようだ。鉄より重い金属は超新星爆発で生じるとされているので、恐らく金属の存在率は地球と変わらない筈である

「ブンゲはお見事でした。一撃でしたね。ニール様の防壁バリアも完璧な頃合い《タイミング》でした」

「見ていたの?」

 ニールが聞いた

「はい。小川の向こうから」

「ブンゲが来たのに逃げなかったのか」

 ニールが通訳してくれた

「はい、武器屋は武器のことを知らなければなりませんので、こんな良い機会を拝見しない選択はございません」

 この男とは気が合いそうだ


「それより、この度はおめでとうございます」

「オポルの部隊を全滅させた祝福か?」

「いえいえ、お2人のことです」


 この町を2人で歩いて、空気は感じていた。刀鍛冶の村出身のニールにとって、刀剣の交換は、デビアス社の広告戦略で有名になったエンゲージメントリングと同じ意味を持っていてもおかしくない。もしそうだとしたら、ニールは僕に脇差しを渡した時点で決意していたことになる。


 リュードはおもむろに脇の箱からローブを取り出した

「これは、直接魔法を防御するローブです。私からのおふたりへの祝福ですので、どうか受け取って下さい」

「こんな高価な物は頂けないわ」

「いいえ、受け取って頂きます」


 ニールは微笑むと

「お客様の前で、脱帽せず大変失礼しました」

 徐に頭巾を外すと、ニールの杖と同じ青色の髪が現れた


「あなたも、セシウ村出身なの?」

 ニールが驚いたようで上擦った声だった

「私は暮らしたことはないのですが、母親がセシウ村の出身でして、ニール様のご尊父様も、ご母堂様も母は存じておりました。ご尊父様につきましてはお悼み申し上げます」

「お母様のご両親はご無事でしたのでしょうか?」

 リュードは首を振った

「ヒフガに嫁いだ母以外の親類はみなあの襲撃で命を落としました」

「そうですか。お悔やみ申し上げます」

 ニールは通訳しなかった


「武器を作る所の因果かもしれませんが、あんなむごたらしい出来事はないと護衛に行った兵士達が申しておりました」

 ニールは泣いている。今はそっと肩を抱いてやることしかできない


「村を襲撃したローゼがブンゲのフリダラ奪取に進軍している情報を掴んでおります。

 私は剣を振ることも、魔法を放つこともできません。しかし、有効な武器や防具を探すことができます。我が一族の無念を晴らす気持ちは残された者の切望であります。

 事を起こすならば、失敗は許されません。打ち漏らせば残存の一族も根絶やしにされるでしょう。

 私は、セシウのお血筋であるニール様とその御夫君ごふくんとなるウメサン様がブンゲを倒される所を見てこの方達なら必ず一族の無念を晴らしてくれると信じて止みませんでした。

 ですから、何卒このローブはお受け取り下さい」

「必ず、ローゼは私達で討ちます」

 また、ニールは僕の発言を待たずに答えてしまった。

 <つづく>





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る