第28話 貿易都市ヒフガ③

 領長はコテージのような宿泊場所を個室で用意してくれた。要人の宿泊用らしく、内装はかなり豪華であった。討伐のための遠征に正装を持ち込むところは”国産”の気質がでていると思った。粗野なパーティならばここには案内されなかっただろう。ともあれ、このパーティに拾われたのは強運だった。


 荷物は既に運ばれていた。荷物の中身を見られた形跡もあった。村長に用意してもらった荷物、入れ方が微妙に違う気がする。大学で盗難事件が多発したためポリカーボネート製の施錠のできるアタッシュケースを使用していた。アタッシュケースは一緒に転移した。転移が量子テレポーテーションだとすれば、アタッシュケースや着ていた服、履いていた靴の転移は不自然である。地球の人類が未到達の物理公理があるのかもしれない。しかし、今は考えるのも面倒だ。

 

 この国の時間の単位は1日の時間を12等分したものと60等分したものを使用しているようだ、12等分の1単位が”ユウホ”で地球の2時間半弱くらいに相当する。60等分の1単位が”ナツ”では30分弱くらいに相当する。細かい時間は分数を使用する。スマホは電源を切ってしまったので時間は感覚の換算だ。指は地球の人間と同じなので数学の十進法も同じであった。


 晩餐会は3/4ユウホ後に実施されるということだ。ニールに起こしてもらうことを考えたが、ニールとラザは不適格なのは明らかだ。ハイゼには頼みにくいので、うたた寝するならばディラに頼むしかない。


 地球ならば多少は遠慮と躊躇するところだが、ここは繁殖期のある世界なので、ディラのコテージを訪れるのは気楽にできそうだ。

 コテージを出ると正装でなく小綺麗ないでたちのニールが立っていた

「町に行かない?」

 肩に手を乗せたニールがそう言った。そういえば車でがっつり寝ていたので眠くないのかもしれない

「ヤイ(いいよ)」

 危険のない美女の誘いを断る甲斐性なしではない

「着替えてくるから、1/5ナツ程待っていて」

 そう言ってコテージに戻ると、突然背中から抱きつかれた


「ありがとう。私に未来をくれて」

 不謹慎にも感想はニールは結構胸が大きいなということだった。温泉の時の印象と違う。あの時は今ほど平常心でなかったのだろう

「ニールは命の恩人だ」

 ニールの手に力が入るのが分かった


 1分程の抱擁の後、ニールは僕から離れると

「ハフニ」

 と言った。ニールの手を取って

「どういう意味?」

 と聞いたが何も答えなかった。視線を合わせないニールに察しはついた。僕はまだこの国の人の文化や感情を知らない

「服、選んであげる」

 ああ、そういう意味かとからかおうとしたがやめた。


 ニールに髪の毛を隠す提案をした。関所のところから僕を「カネ(黒色)」と囁かれる。ブンゲを倒した黒髪というのがこの街に噂されているようだ。人にたかられるのも面倒だ。


 武器屋も見たいが、今日は初めてのヒフガをニールに案内してもらおうと思った。僕の希望はいうまい。

 〈つづく〉

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