第9話 訓練

 サラサ、ギャン、イシスに陸上自衛隊から2人の女性自衛官を加えて、5人1組が結成された。

 女性自衛官は共にレンジャーの資格を有している。

 若葉奈央子と石津京。

 すでに自衛隊は除隊扱いになっている為、元陸曹長と二等陸曹となっている。

 サラサは彼女達を見て、かなり鍛えられた兵士だと感じた。

 だが、ギャンもイシスも兵士の見方など、知りもしないので、たかが人間程度にしか思っていない。

 サラサはギャンに向かって、人間との模擬戦を提案する。

 「お前は馬鹿か。人間如きに格闘で負けるわけがないにゃ」

 ギャンは二人の女性自衛官を見て、笑う。

 「馬鹿猫め。二人共、ゴムナイフを使って、こいつを躾けろ」

 サラサに言われて、緊張した表情の二人はゴムナイフを手に取る。

 「おい、馬鹿猫。お前もゴムナイフを持っていいぞ」

 「馬鹿エルフめ。人間如き、素手で十分」

 「そうか。じゃあ開始な」

 サラサの掛け声で模擬戦が始まる。

 若葉と石津はナイフを構えつつ、ギャンとの距離を測る。

 対人に比べて、かなり距離を取った。これは獣人の脚力が獣並であることを想定している。それを見たサラサはやはり、獣人対策をしっかりと身に着けていると感じた。

 ギャンは笑みを浮かべながら狙いを定めている。彼女からすれば、楽勝な事であった。だが、両方一辺には片付けられないので、片一方づつだと狙っている。

 若葉が僅かに体を右にズラし、石津との距離を開けた。それを好機と見たギャンは一足飛びで若葉を襲った。

 だが、それを見越して、石津が動いていた。ギャンの側面からナイフが突き立てられる。ギャンはその動きに反応して、彼女のナイフを受け止めようとする。

 だが、その瞬間、若葉がギャンに襲い掛かる。

 左右から時間差で突き付けられるナイフをギャンは躱しつつ、大きく後方に飛び乗いた。

 サラサは二人の連携は確実に獣人一体を倒す為に編み出された戦法だと思った。

 石津と若葉は無理にギャンに詰め寄らず、再び間合いを取った。事実、本格的な格闘となれば、力の差は歴然だからだろう。カウンターで一撃を取る姿勢を崩さない。

 それに気付かないギャンは所詮、獣だった。

 相手が間合いを取っていると言うのに、力任せに飛び掛かろうとする。

 何とか寸前で躱しているものの、いつ、ギャンの皮膚に刃が食い込んでもおかしくない。

 「うぬぬううう。こいつら、仕掛けてこないにゃ」

 ギャンは苛立っていた。自分の攻撃がことごとく回避され、尚且つ、反撃されるのだから当然だろう。

 「悪いが、獣のお前じゃ、そちらの人間二人に勝てぬ」

 「何故にゃ!」

 「お前の動きを徹底的に研究しているからだ。馬鹿のお前とは違う」

 サラサに言われてギャンは激高する。

 「人間なんて弱っちいにゃ!」

 「確かにな。一人だけならそうだろう。だが、人間は数が増えると厄介な相手だ。武器だって、我らを超える武器を作り出す。この社会を見ればわかるだろう?お前が勝てるのは生身の人間だけだよ」

 「うぬうううう。くやしいにゃ」

 「悔しがれ。それでもお前の戦闘力は確かに人間を圧倒する。使い道ってヤツだ。私の指示通りにすれば、人間と同じように戦える」

 それを見ていたイシスが笑う。

 「ははは。獣の頭では人間にも敵わぬか」

 それを聞いてサラサはため息をついた。

 「イシス・・・あんただって、その体力の無さと筋力の無さを何とかしなさいよ。お荷物はあんたなんだからね」

 「何をぉおお?」

 イシスはまともに驚いた。

 「気付けよ。一緒に行動することさえ出来ないヤツなんてお荷物以外、何者でもないだろう?あんたは人間たちと一緒に体力作りをしなさい。じゃないと不用品だから」

 イシスは絶望的な顔をしていた。

 「石津、若葉。あんたたちの実力は解ったわ。ありがとう。これからよろしく」

 そう言うと、二人の女性自衛官は敬礼を返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現世界に転移してしまったエルフは精霊術と狙撃技術で傭兵になる。 三八式物書機 @Mpochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ