ひろわれたヒロイン、救いました
出井 愛【書籍化】
【プロローグ】
女の子が捨てられていた。
小雨が降る下校途中、僕が見たのは汚れた段ボールの中に体育座りでうずくまる白いマフラーを巻いた女の子だった。
学校は既に終わり帰宅に急いでいる生徒達はその段ボール少女に見向きもしようとせず、あきらかに『それ』を避けて歩いている。
しかし、僕は帰宅部なので別に急いで帰る必要も無い。
だからだろうか? そこの道端に落ちている段ボール少女の顔を見ようとしてしまったのは――
「あ……」
「え……」
よく顔を見たらその白いマフラーの段ボール少女を僕は知っていた。
同じ高校の子で、名前は……桜井さんと言っただろうか?
確か、去年一年生の時に同じクラスだった女の子だ。隣の席になったから覚えている。
二年生になった今ではクラスは別になり特に交流も無かったので、彼女がこんな奇行をする様な人には思えないが……
もしかしたら、この小雨の中、段ボールで暖を取るのが彼女の趣味なのかもしれない。
……うん、ここは分かり合えるかどうかは別として、彼女の趣味を尊重するべきだろう。
「よし、帰るか……」
「あ、あの!」
『ミャ~!』
そう思って、何も見なかったことにし、その場を立ち去ろうとすると、段ボール少女から僕を呼び止める『二つ』の声が聞えた。
「…………?」
もちろん、僕を呼び止めた一つの声は彼女のものだ。
しかし、もう一つの鳴き声は――
『ミャ~!』
なんと、彼女の手の中に黒い子猫がいた……。
彼女が首に巻いてる白いマフラーで隠れていたのだろう。
その子猫が『ミャ~!』と鳴いているのだ。
「にゃ、にゃぁ……」
……何故か、彼女も鳴いた。
「あ、あの……」
「……何かな?」
そして、彼女はその子猫を抱えながら僕にすがるような声で言ったのだ。
「わ、わたしを拾ってください」
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