第36話 主の責務の始まり

「そういえばさ、幽霊が居るか居ないかって僕に聞いてたよね?」と主がタオとチェンに話しかける。


主は天井に新しい絵を描きながら、細かい設定を書き足しながら声をかけていた。


「ああ、確かに言ったな、でも、下見てたら分かったからいいんだけどこれって、放置してて大丈夫なもんなのか?」とタオが言う。


「んーまぁ長く居続けて御付きとはぐれちゃったりした子とかはたまに色んな種族に役目与えてあるから大丈夫だと思うんだけどね」と主は言う。


「思うんだけどねでいいんだな」とチェンが言う。


まぁ、確かに時々厄介な進化遂げちゃう人生卒業後デビューみたいな命もいるんだけどさ、と思いながらぷにぷにとした肉球で新しい生物や植物を描いている。


「45億年って人間ってずっと居たのか?」とタオが尋ねると、主は


「46億年前にこの惑星は生まれたんだけどさ、全土がマグマでボッコボコで生き物が住めるような状態じゃなかったんだよね。その後僕の生きていた惑星が追突してさ、今の地球アースになった時に生命の源とか水とか資源が足されて400℃くらい地熱が下がってね。同時期に月もその衝突で生まれたおかげで夜も完全な暗闇じゃなくなったんだよね」と言う。


月はなくとも星々はあったけどねぇ。とにかくこの惑星の前世のやつ本当に性格悪いからなぁ。


「マオは誰に指示されて45億年も創造と設定をやっているんだ?」とチェンが尋ねる。


「俺もなんでタマが任されたのか知りたいな」とタオも言う。


統一してほしいが、好きに呼んでいいと言ったのは僕だからいいんだけどね。


「僕も遠い昔過ぎて誰だったかは分からないんだけど、僕もテイアって星で生きていた命だったんだよね。自由に絵を描いたりゲームを作ったりしながら生きていたんだけど、絵もゲームもさ誰にも評価してもらうことなくここに追突して僕ゲームオーバーって感じで死んだはずなんだ」


「マオは人間だったのか?」とチェンが言う。


「片手の指3本しかなかったけどねその代わり腕は4本で足は2本だったよ」と言いながらその姿に変わってみた。


「おお、可愛くないな」ほんと素直だよ君たちは!


「そう!可愛くないんだよ僕の生きていた世界に可愛いものなんかほとんどいないんだよ。だから想像で色んな可愛いものを絵にしたりゲームにして動かしたりして遊んでいたんだよ」と言うと


「そのテイアって星から来て生き延びているやつとか居ないのか?」とタオが聞いてくれた。


「それ!よく聞いてくれたね!実は居るんだよ僕の星でもこの星でもあんまり好かれてない小さい茶色いやつね。あれはどの宇宙の星でも生きていける気がするよ」と言うとタオもチェンも想像がついたようだ。


あいつは僕のデザインじゃない。可愛くないにもほどがある。


どうやって生き延びたのか知らないがこの星に一度海が生まれた時に上手に進化でもしたんだろう。すぐに干上がってしまった海だったのに、一体誰のデザインなんだか。


「あ、で、僕が死んだ時にさ、ものすごく眩しい塊が新しく生まれた星の植物や生物のデザインと設定を任せるって言ってここに放り出されたんだよね」と言うと、


「やるやらないとか決められなかったんだなタマに決定権なかったんだね」とタオが言う。


「いやぁ、その眩しい塊がさ、僕の絵とゲーム褒めてくれてさ、最高の芸術家だって言ってくれたからうっかり一つ返事でやるって言っちゃったんだよね」と言うと、両方から撫でられた。


誰かに認めてもらうってこんなに嬉しい事なんだなってそれで、やる気になった僕は色々とデザインと設定はしてみたものの、命たちをうまくこの星に根付かせるのに随分苦労したんだよなぁ。


生きていくのが困難な星だからまずは無理やり死なない生き物を作ろうとしたら、エラーが出て死ぬ条件を最低限作らなきゃいけなかった。


人間とデザインはほぼ同じで最初だから気合を入れて美男美女にして、折角同時期に出来た月の事も考えて夜にしか行動出来ない太陽に弱い設定にしたらなんとか地上に誕生させることができたんだよね。


食べ物がほぼなくても彼らは夜の月明かりの下で文明を切り開いていってくれた。


その間に僕は海に生きる生き物や植物を作ったりしては、星の嫌がらせで無駄に殺されちゃったりして、トライ&エラーの繰り返しだった。


大きな恐竜のようなものも星の嫌がらせには勝てなかったけど、最初に作った美男美女の生き物がのちに作った人間との間に子供を作れるように進化していったから人間は意外と頑丈に賢くも愚かに今も居るんだけど、


最初の美男美女がそのうち30年ほど生きた人間を食べるというバグが発生してしまって、僕もびっくりしていた。


初期の頃は御付きもお守も居ないから、僕は食べられてしまった人間に選択肢を与える事にした。


人生は特定の事をしない限り一度きりという最初に決めたルールに抵触しないようにお守や御付きになるか、誰かの腹に産まれないけど宿る事が出来ること。一人には一度しか宿れないとする、それらを考える時間何もできはしないけど見ていていい事など。


僕が最初に作った美男美女は妊娠中の人間を食う事はなかったからだ。


新しい人間が生まれるのなら美男美女たちにとっても食料が増えるから待っていようとしたんだろう。


だからだろうか、女は長く生きやすかった。


男はその代りに喰われやすかった。


美女の方が気に入った男は美女が夜伽で子を生すために綺麗な者が残されがちだった。


美女は必ず子供を産んだ。何百歳になろうと変わらぬ美しいままの姿で。


人間との子供であれ、30を過ぎる頃には喰われてしまっていたのがある日、


「お母さん大好き」と子供に抱きつかれた瞬間に美女は自ら我が子たちを喰らっていたことに嘆き自ら嘆願してきた。


「どうかもう子供を殺さないで済むようにしてほしい」と。


母性本能というものの目覚めだった。


彼らには過酷なこの星で文明を切り開いてもらった礼もある。


沢山の人間達を作り上げてくれた。


そして人間は増えすぎてもいた。


美男は行方不明になり、美女は自ら太陽の下で死を選んだ。


僕は美女に提案し、今もこの星でなんだかんだ一番人間を殺している生き物になってしまったが、とても、弱く太陽にも弱く、喰らうのではなくキスをするように血を吸う蚊となった美女は本当はもう子孫たちを殺したくはなかったはずなのに。


美男が生き続け研究し続け生み出したウイルスたちを運ぶ役目にされてしまった。


「あいつまだ見つけられないんだよなぁどこいるんだろう?」と呟くと、


タオが心配そうにチェンなら下を見てると教えてくれた。


チェンのことではなかったんだけどね。


でも、人間は僕がデザインしないものも生み出すようになってきちゃったからきっとその近くにあいつはまだいるはずだ。


あいつが死ぬ時ははるか遠くの太陽に一番近い惑星になるがいい。


あれ?アシスタント君たちが大量に一気に戻ってきてる!何が起きたの?


「えーん!まだお母さんとお父さんと一緒に居たかったのに殺されちゃいましたー」と泣き続けるアシスタント君たち。


この子たちは二度も残虐な死に方をするためにバカンスに行ったわけじゃないんだけどな。


「よーしよーし、今の時代は怖かったかしばらくまた僕の手伝いしておくれ」とスリスリすると少し落ち着いたようだけど下を見つめて、


「お母さん・・・」「お父さん・・・」と呟いている。


彼らももう人生を経験してしまったから二度と人間になることはない。


また違う生き物としてバカンスに行けるようにいいデザインのいい生き物を僕は頑張って考えよう!


その前にタオとチェンに撫でてもらって癒されよう。


「ああ!生き返る~」死なないだろって突かれながらも癒されてるにゃ。

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