異動によってやって来た地では、係累の絶えた家に鯨幕が張られるのを見たものは──。
ホラー苦手めな人にもお勧めします。
怖いけど、楽しい。
主人公がハイスペックで、物怖じせず頼もしすぎるお方なのです。
流れるような筆致と共に彼の後ろをついていけば、無問題。
通常ホラーでは、視点の切り替えは、主人公のいない場面の叙述のためだったりしますが、
本作はさらに一味加わって、
怪異となると、むしろ身を乗り出してくるような藤崎さんと、
繊細に怖がってくれる部下の岸田君の視点が主になります。
つまり!
怖くない(なんなら楽しそう)視点と、めっちゃ怖がる視点の温度差のある両方が楽しめてしまう妙味が味わえます。
静謐な存在なのにアプローチは割と積極的な怪異を頼もしい藤崎さんに頼るもよし、岸田君と一緒に怖がるもよし、な作品。
ここまででも二度美味しいのに、さらにさらに短編集的な怪談会もついてくる贅沢な一品になっております。
前日譚である「鯨幕の家」から読むのをオススメ。
ついでにパソコンはわかりませんが、スマホ読者様にはこの読みやすい字の組み方も推しポイントです!
題名の『櫻岾奇談』、この「櫻岾(さくらやま)」という地名が、まず、古風な漢字と響きの美しさで目を引きます。さらに「奇談」という、ゆかしくも、あやしげな言葉に静かな興奮を覚えます。題名だけで、もう、思いっきり期待してしまいませんか?
期待は裏切られませんでした。独特の語り口、美しく整えられた文字列。カクヨムですから当然挿し絵はありません。それなのに、艶めかしい色彩を伴って、世界が浮かび上がってきます。あたかも、絵草子をそっとめくっていくような。
ここまでくっきりと個性の際立つ世界を作り上げられた作者さまの手腕に脱帽です。
あ、ホラーなんだから『怖い』のが読みたい、というかたのために(?)、本編擱筆ののち、いよいよ怪談話が始まります。こちらもまた、すごいんです。
本作は、読み始めると極めて面白いのでページを進める手が止まりませんが、読み始める前に深呼吸することをお勧めします。極めて複雑な構造をしているため、全貌を理解するのに熟考を要しますから。
怪異と怪談、かと思えば金融商品知識と都心に広がる夜の街の華やかさ。血縁があれば師弟関係もあり。この一作に投入された設定を「効率的」に使えば、何本の小説を書けるのか……
ホラーも、コメディも、両方あり。本作のジャンルは何か。それに悩むのが嬉しい希有な小説です。
そうして語られる物語は、幾本もの因果の糸が、離れることなく別の場所で関係を持ち、一体を保っています。
しかし「絡み」(しがらみ)と「結び」は違います。結んであれば保ちたいですが、絡んでいれば将来には解きたいものです。
さて本作で、因果の糸の繋がりは、どちらでしょう?
「絡み」か「結び」か。その差違が本作にて一貫して語られます。
結果としてどちらに倒れたのかは、ここでは語りません。
しかし幸いなのは、主人公が「結び」を目指したこと。達成するために破天荒な行動を続けて周囲を牽引します。そんな主人公が出張っていることで読者は心強く物語を読み進められます。
いやあ、稀なものを見られます。真に「奇談」です。
筋金入りのタフなビジネスマンが怪異の土地へ挑むという一風変わったホラー小説。
軽妙な語り調子は、どこか詩的であり好き嫌いはあるかもしれませんが、実にこの物語の雰囲気にはまっています。
粗野で冷徹に見える主人公も、それだけではない。意外な人情の篤さを見せながら、これまた魅力的な仲間たちと事件に挑む様は、まさにハードボイルド。
先日、大円団を迎えた物語ですが、主人公の活躍は終わりません。
北海道の地を舞台にした次作も始まっています。
ホラー、ビジネス、ハードボイルド。
贅沢盛りでありながら流れるように読めるこの物語を、是非お楽しみください。
素晴らしい業績をあげているのに、異動先は『忌み地』。
それでも口座の鬼『スーパースター』セールスマンは、いつものオーラを放ちながら、ノリノリでやってきました。
世にも奇怪な土地で、不気味な噂や、起こる恐ろしい怪奇現象。
びびる同僚たち。
それでも『スーパースター』は、まず業績を上げる事を考えます。
たとえ相手が幽霊であっても、です。ひぇぇぇ。
どこであろうが、ずかずか踏み込んでいく『スーパースター』は呪われるのか、それとも逆に、幽霊のほうが『スーパースター』の金づるになるのか。
ドキドキしながら読んでくださいねっ。