第31話 お肉が食べたいの6

 魚包みを手に持ちユイファを待つ。


 ユイファも葉っぱで包まれたものを2つ持ってきた。おそらくお肉だろう。


 僕達は夕暮れになった村を歩き土器作りの女の子の元へ戻る。


「やっぱりカリカナだったか」

「ユイファ」

「マナブが世話になったな」

「改めて、お世話になったマナブです」

「え、あ、わたしはカリカナ」

「色々教えてくれてありがとう。これあげる」


 魚包みをカリカナに手渡した。


「これは?」

「お昼に食べた焼き魚のあまりもの」

「こっちは焼き肉だ。マナブと一緒に捕まえたものだ」

「いいの?」

「3人では食べきれないからな、遠慮するな」

「ありがと、マナブもありがと」


 カリカナは大事そうに抱えてお礼を言ったので、僕はニッコリと頷いた。


 たくさん食べて大きくなりなさい。


「じゃあなカリカナ、私たちはもう戻る」

「また遊びに来るね、カリカナちゃん」

「ちゃんづけ......うん......バイバイ」


 今日は新しい友達もできたし、色々と濃い1日となった。

 もちろんお腹ペコでお口はもうお肉を想像して我慢できない。


 カリカナよ親睦を深めるのは次の機会にさせておくれ、ユイファの家に戻った僕達は念願のお肉パーティの時間となった。


「父よ待たせた」

「タジキさんすみません遅れました」

「うむ」


 タジキさんは既に着席していて僕達の帰りを待っていた。


「マナブは手を洗ってこい。もうすぐに食べれるぞ」

「わかった」


 僕達は焚火を囲うように座った。


 それぞれの前に葉包みが一つと木のお椀にスープ、それと遠火にあたるように串刺しにされたお肉が並んでいる。


「では、いただこうか。ユイファもマナブも良く働いた事に感謝する」

「うむ、森の恵みに感謝する」

「いただきます」


 ご飯の前に手を合わせる文化はこの世界にもあるらしい。


 さてとトカゲの肉はどんな味がするんだろうか、日本に居た頃ならゲテモノ食いは多分しなかったと思う。

 日本で食べる肉と言えば、牛、豚、鳥。爬虫類の肉などもちろん食べようと思ったこともない。


 葉包みを開けると蒸し焼きに近いだろうか、しっとりとした艶が白い肉の表面にある。


 鼻を近づけて匂いを確認すると、肉臭さはなく、葉の匂いが肉に移ってるようだった。


 まだほんのり温かい肉を繊維に沿って引きちぎり、恐る恐るしかし、期待を込めて口の中に運び咀嚼した。


「美味しい」


 お肉にクセはなく、白身魚と鶏むね肉の中間のような感じで筋張った硬さもなく噛めばホロホロと簡単に繊維が崩れる。

 葉の香りはどこかで嗅いだことがあるとおもったが、口の中に入れると鮮明にわかった。青シソのような風味が肉の旨味を引き立てている。


「うむ、ウマいな」


 タジキさんも肉は好みのようで目を閉じて堪能しながら食べている。


「次はスープを食べてみようかな」

「今日は1杯だけだぞ。まだ煮込みが足りない、それは明日の朝にはもっとうまくなる」

「へぇ明日の楽しみができたよ」

「明日の朝はマナブも食べるか?」

「もちろん、食べるよ」

「わかった」

 

 木の器を手に取り眺める。木を削ったものと思ったけど、どちらかと言うとヤシの実みたいなものを半分に割ったお椀のようだ。

 中は滑らかだが、外はクルミのような模様がついている。


 お椀に口をつけて汁をすする。


 スープはピリ辛な味付けが多いようだ。塩っ気は少ないが辛味がくる。

 出汁文化のある日本を知ってる僕からしたらガツンとした旨味がない薄味のスープだ。


 この村にはお箸もないからスープも手で食べる。


 恐らくもも肉だろう、顔を出している骨付き肉を手で掴み齧りつく。

 もう一度スープを口に含み出汁と混ぜ合わせるように咀嚼を繰り返した。


 そして薄味だからこそ繊細な味を味わう為にすぐに飲み込まずに口の中で舌を泳がす。

 野菜と木の実の香味と、骨と肉からでた旨味は長く味わっていたいと思うほどに美味しかった。


「ユイファは料理が上手だね」

「そうか」


 串焼きの方はよく見ると、木の棒に刺しているというよりかは肉を巻き付けているという感じだ。

 刺してあるのは最初と最後の部分だけで、後はグルグルと隙間なく巻き付けて固定してある。


 炙った肉の表面には炭がこびり付いたのか黒く変色していた。

 だけどその黒色は炭焼きのような独特の香味がついていて食欲を掻き立てる。


 串を両手に持ち中央から齧りつく。


 水分が抜けているので肉質は硬めだけど噛み応えがあってお肉を食べているという実感が一番大きいかもしれない。

 惜しむべきは塩味が足りないことかな。


「マナブ、それにはこれをつけて食べろウマいぞ」


 タジキさんが粉のようなものを葉にのせて手渡してくる。


「それはガナの実を細かく砕いたものだ、つけ過ぎると口が臭くなるから気をつけろ」

「口が臭くなるって......」


 ガナの実というモノを肉にふりかけて食べるとびっくりした。

 ニンニクのような強烈な旨味とほのかな塩味が味覚を直撃する。


「っうま?!」


 タジキさんがニヤリと口元を上げ、ユイファもニヤニヤと僕を見ていた。


「よかったなマナブ、ガナの実は貴重だぞ」

「この味はお肉によく合うね」

「父は肉を食べるときのためにいつもガナの実を隠し持っているのだ」

「気にせず食べろ、また探しておく」


 こうして、異世界お肉祭りは大満足で終わった。


 トカゲ肉はクセがなく鶏肉に近い味で僕の獲物のひとつに新たにカウントされたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る