第36話 私と競輪㉟
でも、一つ気になることがあるんです……。
その人の名前って何でしたっけ?
思い出せないわ……まぁそのうち思い出すでしょう!
そんなことを考えているうちに目的地に到着していたようです。
さっそく中に入ってみましょう!
扉を開けて中に入ると、そこには誰もいなかった……いえ、一人だけ居ました。
その人は椅子に座って本を読んでいるみたいです。
どうやら読書に集中しているみたいで、私には気付いていない様子です。
そっと近付いて後ろから声を掛けてみます。
そうするとビクッと体を震わせた後、恐る恐る振り返りました。
そして私の顔を見るなり固まってしまったのです。
どうしたんでしょうか?
何かあったのでしょうか?
疑問に思っていると、突然泣き出してしまいました。
えっ、なんで泣いているんですか!?
私、何か悪いことでもしてしまったのでしょうか?
オロオロとしていると、彼女は涙を拭いながら話してくれました。
「ごめんなさい、あまりにも嬉しくて
泣いてしまっただけですから気にしないでください」
そう言ってくれました。
「それなら良かったですけど……」
それにしても、この方は誰なんでしょう?
見た事がない方です。
もしかして新しく来たコーチの方でしょうか?
そんな事を考えているうちに落ち着きを取り戻したみたいです。
落ち着いたところで自己紹介をすることになりました。
まずは私から名乗るべきですよね。
ということで、自分の名前を名乗ることにします。
次に相手の名前を尋ねることにしましょう。
どんな名前が出てくるのでしょう?
ワクワクしながら待っていると、出てきた言葉は予想外のものでした。
えっ、今なんて言いました?
聞き間違いでなければ、確かにこう聞こえたはずです。
そう、この人はこう言ったのです。
『はじめまして、今日からあなたの担当になりました、花宮です』って。
ちょっと待って下さい、どういう事ですか?
意味がわかりません。
そもそもあなたは一体誰なんですか?
聞きたいことがたくさんあり過ぎて困ってしまいます。
だけど今は我慢することにしました。
だって、せっかく会えたんですから、ゆっくりお話をしたいです。
だから今は我慢する事にしたんです。
それにこの人とは初対面ですし、いきなり質問攻めにする訳にもいきませんから。
ここは慎重に行くべきでしょう。
そうと決まれば早速行動開始です。
まずは相手の事をよく知ることから始めましょう。
そう思い立った私は彼女に色々と質問をしてみる事にしました。
「あの、すみません、少しいいですか?」
声を掛けると、彼女は笑顔で応えてくれた。
やっぱり優しい人だと思いながら話を続けることにした。
「えっと、まず最初に聞きたいんですけど、あなたは誰なんですか?」
そう言うと、驚いた表情をしていた。
あれ、何かおかしな事を言っただろうか?
心配になりつつも続きを促すと、教えてくれた。
なるほど、そういう事だったのか。
つまり、この人は私のコーチであり、元選手でもあるという事なのです。
それなら納得出来ます。
それにしても凄い経歴の持ち主です。
ここまで来るのに相当苦労したのではないでしょうか?
そんな事を考えているうちに、ある疑問が浮かんだので聞いてみる事にしました。
「あなたほどの実力者なら、他に選択肢はあったんじゃないんですか?」
そう聞くと、彼女は答えてくれた。
何でも、怪我が原因で引退せざるを得なくなったそうだ。
それで仕方なく、こうして指導者の道を選んだのだという。
それを聞いて私は素直に感心していた。
それと同時に尊敬の念を抱いた。
何故なら、そこまでして夢を追い求めた結果、
叶えたのですから凄いとしか言いようがありません。
だからこそ、私も負けていられないと思いました。
こうして出会ったのも何かの縁だと思いますし、
これを機に仲良くなれたらいいなと思っています。
そう思っている矢先の事でした。
突然、背後から声を掛けられた。
振り返ると、そこには一人の女性が立っていました。
年齢は20代前半といったところでしょうか?
身長が高く、スタイル抜群の女性でした。
顔立ちはとても整っており、まるでモデルさんのようでした。
そんな彼女を見て、私は思わず見惚れてしまいました。
ですが、それも仕方のない事だと思うんです。
だって、こんなに綺麗な人が目の前に現れたんです。
誰だって驚きます。
私だって例外ではありません。
ただ、一つだけ気になる事があります。
それは、何故ここに居るのかということです。
ここは関係者以外立ち入り禁止の場所ですよ?
それなのに、どうして入って来れたんでしょう?
不思議に思っていると、向こうから話しかけてきました。
「こんにちは、初めまして、
私はここの管理を任されている者です。以後お見知りおき下さいね」
丁寧な挨拶と共に差し出された手を握り返す。
見た目通りの柔らかい手触りをしていて、とても心地よかった。
そのままの流れで握手を交わす事になったのだが、その手を見た瞬間、違和感を覚えた。
なんだか冷たいような気がするのです。
まるで氷のような冷たさを感じるです。
一体どういう事でしょうか?
気になって聞こうとすると、先に話し出されてしまった。
仕方ないので大人しく待つことにするのです。
しばらくして、ようやく話してくれた。
その内容を聞いて納得した。
要するに、こういうことなのだろう。
この人は人間ではなくアンドロイド。
だから体温が低いのかもしれない。
そう考えると納得できる部分もある。
とはいえ、それだけでは説明がつかない事もあるのだが……まあいいだろう。
それよりも大事な話がある。
実は今、自分の現状について困っている事があるのです。
それについて相談に乗ってもらいたいと思っているわけなのだが、果たして受け入れてくれるだろうか?
不安を抱えながらも意を決して切り出すことにした。
緊張しながらも口を開く。
勇気を出して言葉を紡ぐ。
その言葉を聞いた瞬間、目の前の人物の表情が一変した。
先程までの穏やかな雰囲気が消え去り、鋭い目つきに変わる。
そして厳しい口調で問い詰められてしまった。
一体どういうつもりなのか、詳しく説明して欲しいと迫られる。
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