海底にて

 ああ、懐かしいねぇ。こうして見上げられるようになったのも、ここ数年のことだから。それまでは、あんまり見ないように下を向いていたの。笑わないでね? 少し、怖かったの。

 私は全てを捨ててここに来た。捨てられた、と言った方がいいかしら。体を縛られて、船の上に座らされて。お酒とお花とお米と一緒に、私はこの海に流された。

 絶望して震えていたのに、皆様はとっても良くしてくれたじゃない。綺麗な着物、美味しい食事。歌も踊りも見せてくれて、本当に楽しくて。……もうどれだけの月日が経ったかしら。

 波の間から見える、空の光は美しい。だけど私、決して帰らない。例え死んでも。

 私の遺体は、どうぞ皆様で召し上がって。


 終【お題:憧れ(憧憬)(2024/04/06)】

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