第34話 周囲みな敵なり
無茶苦茶な工程の仕事が始まった。
この会社で工数見積もりを聞かれたことはない。すべての仕事は上が勝手に工数を決めて進める。
特に昼ギツネ課長は上から押しつけられた要求をすべてそのまま受け入れてしまう。
「あの人、上からの要求一切拒まないんだよ」
別の課長が教えてくれた。
昼ギツネはつい最近課長になったばかりという理由もあるが、あまりにも仕事に関する理解が低いというのもある。
そしてこの人の仕事は何かあると私のところに飛んできて、困った顔をしてただ茫然と立っているというものだった。それはこれから先あらゆる管理職が私の前でやる行動だった。
*
渋い顔でキーを叩いていると昼ギツネ課長が飛んで来た。
「事業部長がね。他社のテレビにUSBがついているのを見てウチのにもつけろと言ってきたんだよね」
知るか馬鹿野郎。思わず呟いてしまった。今どれだけ忙しいか分かっているのか?
だいたいUSBがついているってありゃあUSBハブが筐体についているだけだ。USBで操作しているんじゃない。
それをアホウの事業部長が見て勘違いして入れろといっているんだ。
USBモジュールを組み込むことは可能だ。だが一分一秒を争うこの状況で手が出せるならやってみればいい。
メーカー提供のUSBモジュールを調査し、サードパーティのUSBモジュールを調査し、移植作業をやり、デバッグをして・・さてそれでどれだけのことができる?
シリアルケーブルによるリモートで十分なのだ。
むすっとした顔でこの辺りを説明してから後は昼ギツネ課長を徹底的に無視する。
その後三日間ほど櫃ギツネ課長は同じセリフを飽きずに繰り返していたが、やがて諦めてイエスマンMの所にこの話を持って行った。
もちろんイエスマンMがこの仕事をできるわけがない。ヘラヘラと笑って仕事をかわしたものか、課長も何も言わなくなった。
気分で仕事増やすんじゃねえぞ。事業部長さんよお。
*
社内報で工場でのアンケートが出ていた。工場は本社に比べて、やりがいを感じるという率が非常に高い。
工場は本社に比べて給料も待遇も一段と悪い。
こんな所で研究結果の証明をみるとはと感動した。
人間は環境が厳しく報酬が少なければ少ないほどやりがいを感じるという研究結果がある。
自分はどうしてこんなひどい目にあっているのか。どうしてこんな状況で生きているのか。
そう考えた時に、人間の脳はこう自分を誤魔化して自殺を防ぐ。
『そうだ自分はやりがいを感じている。だからこれでいいんだ』
人間とは哀れなものである。自分に酔わないと生きることさえできない。
だが動機付けは大事である。
勉強しろと子供たちを説得する。技術書を一冊でも多く読み技術力をつけろと。
だがその動機は?
動機が無ければ人間は頑張ることができない。
だがこの会社はできる人間には仕事が集中して潰される。そして大事にされるのは上司に媚を売るイエスマンMのような人間ばかりだ。
そこでこう教えた。
「がんばって勉強しろ。そうすればいざ転職というときに役に立つ」
なんてセリフだ。ネガティブここに極まれり。言っている自分が嫌になる。
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