第20話 おぶさりてぇ発奮す

 最初の製品が出来上がると、次の企画がすぐに立ち上がった。とにかく何か新製品を作れ、というのだ。

 プラズマディスプレの特徴を生かし画面は大型化する。ライバルの液晶ディスプレイが遅れている分野だ。とにかく先行の利を失うことなく走り続けなくてはいけない。開発系の企業の宿命である。


 しかし、またもや製品の仕様書が無い。

 その点についてうるさく言っていると、どこか上の方の会議で仕様書問題が出たらしい。どこで仕様書を作るのか、というのが盥回しにされている模様である。

 会議に出ていろいろと訴えたかったのだが、昼ギツネ課長がそれを認めない。

「うん、キミの言うことも判るんだけどね。キミには会議で時間を潰さないで作業に没頭して貰いたいんだよ」


 実は課長の腹は見えていた。この人物は見え透いた策を練る。椅子の手もたれに敏感なだけのおかしな人間たちのおかしな会議に私が出れば、会議が紛糾すると考えているのだ。

 私は人とは争わない性格だが理屈には固執する。間違っていることは間違っているのだ。間違っていることを正しいこととして通せば、必ずその先で問題となって具現化する。

 具現化した問題を解決するために努力するのは誰だ?

 もちろん、この私だ。冗談じゃない。


 悲しいことに私は他人の尻拭いのために産まれて来たような人間である。

 その私不在の会議で立ち上がったのがT氏である。

「もういい、判った。俺が仕様書を書く!」


 拍手をするべきだろうか?

 いや、嫌な予感がした。それも大変に嫌な予感だ。


 私の嫌な予感はたいがい当たる。

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