鷹の森

現実逃避

第0話 桧凪

「ったく、あいつら揃いも揃ってアホばっか。」


時刻は午後2時。青年は1週間ぶりに帰宅の途についていた。


「ハァ…ハァ…。なにしろあの女が面倒くさい…、勝手に俺を目の敵にしやがって。男に多少ほっとかれてるからって俺に当たってんじゃねぇよ。藤倉も藤倉だ。愛人作るんなら己で面倒見きってくれ…。ハァ…。」


足元の砂利にイライラをぶつけながら、口から出るのは職場の文句ばかりであった。

文句と一緒に、息切れも。

そのまま街の奥へ奥へと歩いていくと、広くて洋風なお屋敷が目に入る。

植物があしらわれた美しい門。

一歩中へ踏み入れると、心地よい、花と緑の香りがした。


「あっ、ねぇ!凪帰ってきた!凪ー、おかえり!」

「お嬢様、あまり乗り出すと危ないですよ。」


屋敷の2階、バルコニーからこちらをのぞいてくるのは、青年の幼馴染だった。

こちらに向かって、嬉しそうに手を振ってくる。


「1週間ぶりだねー!もっと早く帰ってこーい!」

「…うるせー。」


口では悪態を吐きつつも、彼女の姿を見ると頬が緩んでしまう。


「さゆりとケーキ焼いたから、一緒に食べよ!さっさと入ってきて!」

「おう。」



青年の名は桧凪ひなぎ

数年前、育ての親のじじいが亡くなってから、この屋敷に世話になっていた。

幼馴染の名は鷹崎たかさきカエデ。

この屋敷の主、鷹崎家の一人娘だ。


少し先の未来で、二人は婚約するのだった。







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