番外編(上) 劇場版!? 闇のカードなので世代を超えた決戦には加わらないはずだった(過去形)

 人とカードが紡いだ絆と友情により、世界を悲劇で繰り返す諸悪の根源は討たれ、世界は救われた。


 ――本当に?


 世界全てを支配し、闇で満たす。

 それはいつから始まったのか。正しく認識できるのは【終焉魔機神デウス・マキシマム】本人のみだ。

 闇の根源と呼ばれたそれがいつ誕生したのかは永遠の謎である。ある一人の研究者は名前がヒントなのではないか、という仮説を作った。


 ……終焉。かの存在は終わりからやって来たのだ。


 ならばおかしいだろう。【闇】はこの世界に最初から存在するという痕跡があるのだ、と別の誰かが否定する。

 この世界は勇気ある子ども達が立ち向かうまでは【終焉魔機神デウス・マキシマム】の手の上だったではないか、【闇】があって当然だろう、と反論する。


 終わりから始まりへ。世界を繰り返したのは、自身を次からの世界では始まりからものとするため。

 真の目的が、自身を頂点とした安寧を永遠にするためだったとしたら。【終焉魔機神デウス・マキシマム】が恐れる何かが、この世に目覚める可能性があるのではないか――証拠を立てねば陰謀論の領域だと言われ、その研究者は学界から爪弾きにされた。



 とある遺跡で一枚のカードが発掘されるまでは。



 フレームに色の無い、ガラスのように透き通った一枚のカード。そこに記されていた【虚無】、という属性とフレーバーテキスト。



 いつか未来終焉は倒されるだろう。

 だから過去始源は時を待ち続ける。

 起点である虚無はただ一つを望む。

 それは――。



 その先は破損して読み取れなかったが、良い事ではないのは確かだった。

 【虚無】と言う未知に対しての研究チームが即座に設立され、白羽の矢が立ったのは……。



***



 光咲聖也は見たことのないカードのみを使う何者かと戦っていた。

 相手のことを例えるならば……白、だろうか。一切の汚れのないロングコート、作り物めいた白磁の肌。その目は白濁しており、視力が残っているのかわからない。


「《不落の城壁》発動! その攻撃を防ぐ!」


『ほう、なかなかやるではないか』


 数多の戦いを乗り越えてきた光咲聖也の前に立つのは、当然のようにカードの力を現実として振るう強者。

 知らないカードしか使わない……それはつまりこちらに情報というアドバンテージが無いということだ。だからこそ防御を中心とし、相手がどう動くのかを観察し、慎重に。


『しかし盛り上がらぬ展開よ……もう十分だ。底は知れた』


「何を……っ!?」


 飽きた、そんな手つきで発動された一枚のカード。

 それは新たに世界へ現れた脅威である【虚無】を強力に支援する力。


『発動せよ、《始源深界 カオス=トゥルース》!』


 瞬間、二人を取り残して世界が漂白されていく。


「なんだ、このカードは……!?」


『世界をあるべき姿へ戻しているまでよ! このカードの発動は無効化されず、《始源深界 カオス=トゥルース》の中で【虚無】以外は存在することを許されない!』


「なっ、《光輝士団長 ヘブンス》!!」


 彼がエースに据えていたモンスターからも色が失われていき、ガラスのように割られて破壊された。


『【光】と【闇】を併せ持つ唯一無二の存在とてこの程度か。あやつから作られた《死統龍 ヘルシャーロイデ》を目にすることなく葬れるとは――――む?』


 空を見上げる。そこに色はない。ただ、何かが現れようとしている!


『何奴!』


 ひび割れた空から落ちてくるのは二人の少女。一人はその手に剣を、一人は指揮盤を握りしめている。つまり片方はモンスターでもう片方は召喚者サモンコーラー


『やーっと見つけたわよ《アザト》! この時代で暴れるつもりねー!!』


「落ち、落ちてるぅー!!」


 要所に防具の混じった戦闘用ドレスでぶんぶんと剣を振り回し戦う気満々と気の強そうな黒髪お嬢様。スカートがめくれ上がらないように必死に押さえている半泣きの少女。


『頼みますわよレイカ!』


「えっと、これだよね《ナイア》! 《化身変粧メイクアップ ルージュブラッド》を発動!」


『これで《紅の千貌幻戦姫レッド・クイーン ナイアルーラ》に大・変・身! しますわ!』


 カードの発動によりお嬢様の手の中に握られたのは、色の抜けた世界で一際目立つ真っ赤な口紅。

 口元へ紅を引いたのをきっかけとして黒から赤へ、ナイアと呼ばれたモンスターの色が変わっていく。手にした剣は大きく姿を変えて鎌になる。


『私、オン、ステェーーーーーッジ!! ですわーーーーっ!!!!』


 ぶん、と大きく一度振った軌跡は赤色の弧を残し、斬撃として飛んでくる。狙うのは……アザト、と呼ばれた真白の相手。


『ちいっ、邪魔を……! まあいい、この勝負はお前にくれてやろう……かの伝説の召喚者サモンコーラーの前のウォーミングアップとしては物足りなかったがな』


「伝説の……!? 待て!」


 聖也の声が届いたのか届かなかったのかは分からない。アザトは勝負を中断して姿を消し、《始源深界 カオス=トゥルース》の影響は消えて世界の色が元に戻る。

 残るのは空から降って来た謎の二人。モンスターな女の子の変身は終わり、色は黒に戻っている。


 …………なんとも言い難い無言の時間。


「あ、あの、光咲聖也さん……ですよね」


 静寂を破ったのは少女だった。緊張からか体を少し縮こませ、おどおどしつつもこちらに話しかけてくる。


「君は一体……?」


「信じてくれるかは分かりませんが……私達は未来から来ました」


 曰く、【虚無】の創造主【始源時空神エクス・ディメント】《白きアザト=ホース》の復活により未来は危機に陥っているのだという。

 世界は色を失っていき、それに侵された人間は段々と自我が消え、カードは【虚無】に呑まれた姿へと強制的に書き換えられる。


「《ナイア》が言うには今はまだ全力ではない、らしいんですが……復活を早めるために過去へと遡り、強い召喚者サモンコーラーを倒して力を奪っています。……いずれ【終焉魔機神デウス・マキシマム】と同等の力を取り戻すでしょう」


「ッ!!」


 それはけして忘れることのない諸悪の根源。あれと同じ力を持つ敵がひっそりと動き出している――。


「どうか一緒に戦ってください! お願いします!」


 頭を下げた主人に対し、黒きモンスターは怪訝な目を向ける。


『《千貌原戦姫ラフ・プリンセス ナイア》様だけで十分じゃありませんの、レイカ? あっさり負けそうだったし無視して《アザト》を追っかけた方が』


「だって! あの光咲聖也さんだよ!? 【光】と【闇】を一緒に使えるただ一人の召喚者サモンコーラーなんだよ!!?? 絶対に力になるって!!」


『……有名な召喚者サモンコーラーのことになると早口になるの、なんとかなりませんの?』


 呆れた様子の相棒の言葉は耳に入らず、ファンです! オーラと宣言を全開にして自身のモンスターへ向けて光咲聖也のカードや試合や逆転劇を布教し始めようとしている。


「どう思う、《死統龍 ヘルシャーロイデ》?」


『…………』


 えええええええ【虚無】って何いいいいいぃぃ!!!??? というか知らない子とモンスターのキャラデザ的に自分達のさらに後に作られてそうな続編だと思うんだけど女の子おおおおお!!!!???

 まだ戦いには慣れてなさそうだな……。モンスターと使い手どっちもかわいいな……。


 まあ、とりあえず。


『汝の思うままに』


 はぐらかしとけばいい感じになると信じて――!

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