邪竜復活

フレイル達は瘴気の谷を駆け抜けていく。谷底は黒い瘴気が充満しており生命の息吹は微塵も感じられない。

「この瘴気は間違いなく化け物から噴出していたのと同じものです」

 ソニアは冷静に黒い瘴気の分析をした。

 谷底は大小様々な岩が散乱しており、オーズを台車で運ぶのは困難になった。台車とハンマーをその場に残しフレイルがオーズを振り回しながら進むことになった。

 進むに連れて瘴気はどんどん濃くなり前方が見えなくなる程になった時、岩山が目の前に現れた。その岩山の隙間から瘴気が漏れ出ている。

「まさか、この岩の下に邪竜が……」

 フレイルが呟くと、

「その通りです」

 岩山の天辺から声が聞こえたら。見ると女神の鎧を着ているパリンストンが岩山の上からフレイル達を見下ろしていた。

「その様子じゃ、邪竜はまだ復活出来てない様ね?アンタの夢は叶わないまま豚箱にぶち込んでやるから」

 フレイルはパリンストンを見上げながら言った。

「そうはいきません、まさかこんなにも早く追い付かれるとは予想外でしたが何とか間に合いましたよ?これが見えませんか?」

 パリンストンの傍をみると岩山に刺さった棒の様な物が見えた。それは黒い瘴気の中でも女神の鎧と同じ様に輝いていた。

「これこそが邪竜様を封印していた忌まわしき槍です!岩を退けるのに苦労しました!しかし今遂にこの槍を引き抜く事が出来るのです!さあ!そこで指を咥えて見ていなさい!邪竜様の復活を!ダークネスディザスターデストロイドラゴン様の降臨を!」

 パリンストンが槍を力任せに引き抜き、フレイルを挑発する様に槍を目の前に投げ捨てた。キラキラと光る槍はフレイル達の足元に落ちた。

 槍を抜いた岩の隙間から黒い瘴気が一気に吹き出した。それと同時に岩山が音を立てて動き出した。初めはコロコロと小さな石が落ちる程度だったが徐々に揺れが大きくなり大きな岩まで転がり落ちてきた。

「姫様!離れましょう!ルーンは槍を回収!」

「あっはい!姉様!」

 ソニアの指示の下ルーンは槍を拾い上げて岩山から離れ、フレイルも揺れる岩山から目を離さずに距離をとった。

 岩山の天辺にいたパリンストンも降りてきて岩山の前に立っている。

「さあ!ダークネスディザスターデストロイドラゴン様!今こそ復活を!」

 岩山が起き上がり中から巨大な黒い塊が現れた。全身漆黒の鱗に覆われて大きな羽を広げた長い尻尾と首を持つ怪物である。

「グオオオオオオオオオォォォォォォ!!」

 邪竜が雄叫びを上げた。それ雄叫びは空気を震わせ大地を揺らした。フレイル達はその場に立っているのがやっとであった。

「なんて力強いお姿なのでしょう!これで世界は我ら邪竜教のものに!」

 邪竜が吠えた衝撃で崖から岩が剥がれ落ちた。それはパリンストンの真上に岩が落下してきた。パリンストンは足元で大きくなる影に気付き見上げた。

「え?」

 パリンストンは呆気なく岩に押し潰された。フレイル達もその光景を見ていたがそんな事を気にしている暇はなかった。今まさに目の前にいる邪竜に圧倒されていた。

「いったいどれ程の時を我は封印されていたのだ」

 邪竜から重々しく威圧的な声が聞こえてきた。

「しゃ、喋った……」

 アーティは声を漏らした。

 邪竜が首を横に振り辺りを見回した。そして遥か下で立っているフレイル達に気付いた。

「お主が持っているその槍、女神の槍か。どうやってここまで来て抜いたか知らぬがよくやった。まさかは我の封印を解く者が現れるとは想像もしていなかった」

 邪竜はルーンを見て何か勘違いをしていた。その事に反論出来るほどルーンに余裕はない。

「そしてその横にいる男を担いでいる娘の髪と目の色には見覚えがある。女神がよこした戦士と同じ気配を感じる」

 邪竜はフレイルを睨みつけた。

「私の名前はフレイル・スウィンバーン。貴方を封印した戦士の末裔よ」

「なるほど。奴の子孫は生き残っていたか。なら目覚めの運動がてら死んでもらう」

 邪竜は口から黒い炎を吐き出した。それは触れたものを一瞬で焼き尽くす邪悪な炎であった。

 炎は谷底を焼き尽くし岩さえも溶けるほどであった。その炎の中でフレイル達は必死に立っていた。熱くもなく焼かれもしないが炎が吐かれたと同時に凄まじい風がフレイル達を襲ったのだ。

 炎が消えフレイル達の姿を見た邪竜は驚いた。

「何故生きている。また女神の力か?なら直接手を下すか」

 そう言うと邪竜は前足を大きく上げた。しかし狭い谷底では上手く前足を上げられない。

「ぐ、狭いな。羽も広げられぬ。まずはここから出るとしよう」

 邪竜は大きな足を前へと踏み出した。踏み出した衝撃で崖が崩れる。

「姫様!一旦谷から抜けましょう!落石で閉じ込められるかもしれません!」

「ええ!分かったわ!」

 ソニアの提案にフレイルは直ぐに反応して走り出した。邪竜を背にしてフレイル達は必死に走っていく。邪竜も後ろから迫ってくるが狭い谷底で思う様に前に進めず崖を力任せに削りながら進んでいく。

 走りながらもフレイルもソニアは今後の事を相談していた。

「姫様!兵達を撤収させましよう!このままでは全滅してしまいます」

「撤収って何処へ?」

「兎に角遠くへです。我々は谷の入り口で迎え撃ちましょう」

「奴に攻撃が通るか分からないけどやるしかないか」

 二人の相談にルーンが割って入った。

「こっちには女神様の槍もあるし大丈夫です!」

 ルーンの発言にフレイルの表情は曇った。

「確かにその槍は邪竜を封印してたけど封印しているだけだった。倒す事は出来なかった。本当に倒せるかどうか」

 フレイルは珍しく弱気になっていた。それは邪竜の圧倒的な存在感に弱気になっていたのだ。

 フレイル達から言葉が消えた。そんな中オーズがみんなを励ました。

「大丈夫!俺が土下座をして守るから!さっきの炎だって効かなかったろ?だから安心しろどうにかなる」

「どうにかって?」

 フレイルがオーズに質問した。

「分からない。でもどうにかなるから!おれが土下座してる限り何だって出来るから!その間にみんなで何とかしてくれ!」

 オーズの言っている事は無茶苦茶であった。そんな言葉にフレイルから笑みが溢れる。

「ばっかみたい!意味分からないし、何の根拠もないし私達頼りだし!」

 その言葉にソニアとルーンも続ける。

「全く。作戦なんてあったもんじゃない」

「騎士学校の初等部でもマシな作戦を提案しますよ」

 最後にアーティもオーズにダメ出しした。

「すいません、お兄ちゃんが……」

 全員がオーズの言った事を否定しているがその顔には笑顔が溢れている。

「まあ、今日だけは特別に乗ってあげる。兄ちゃんは土下座してて。私達が何とかしてあげるから」

 フレイルの目に光が戻った。

 フレイル達は最後の決戦に向けて走っていく。

 

 

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