第10話 居酒屋にて 柔 知る
酒が進み、柔も心が軽くなってきたころ、席もすべて埋まり雑音が心地いい時間だ。その雑音の波に乗り、女神がこの世界のことを話し始めた。
「まず、柔。ごめんね。あなたをこのような形で陥れるような形になってしまって。」真剣なまなざしで見つめる。その誠意を組んだのか柔はにこりと笑った。女神は話を続けていいという了承と取り、話をつづけた。
「この世界は、惑星ダガン。ガラテーア大陸のゼイン帝国よ。そして私の名前はレイニア。『この国の女神』よ。」
柔は一気に情報が訪れたことにより、目をつぶり考えた。
「すまん、話の腰を折ってしまうんじゃが。」柔は我慢が出来なかったのか、話しかけた。「気にかかる言い方をするでの。『この国の女神』ってのはどういうことなんじゃ。その…レイニアさん。」名前で呼ぶのに慣れていないのか、すこし遠慮がちに質問をした。
「そこだけ先に話すね。この大陸には大国が3つ。そして、小国が1つなの。そして、女神という存在は大国のみに存在している。つまり三人いるのね。そのうちの一人が私というわけ。女神なんて呼んでるけど、私はエルフというもの。この大陸には存在していなかったのよ。でも、大昔にこの大陸の人間と仲良くなった1人のエルフがいたの。その方は大賢者と言われ、この大陸の進歩に大きく関わったらしいわ。」
「一人?一人でどうやって繁殖するんじゃ。」
「そうよね。仲良くなったのは1人。そしてその大賢者様は二人の赤子も連れてきたの。」
「それがレイニア、お前さんなのけ?」
「そうよ。」
「まて、年はいくつなんじゃ。」
「ざっと200年はゼイン国に仕えてるわ。赤ちゃんから子供のころの計算はしてないわね。エルフって時間に興味ないのよ。」
柔はその事実に驚いた。「200年…エルフさんってのはすごいのお。」
「なに?あなたエルフ知らないの?転生者はこれ聞くと大喜びか、ああ聞き飽きたよ。みたいな反応だから、なじみ深いと思ってたんだけど。」
「いやあ、わしは知らんのお。まあでも大先輩じゃな、レイニアさん。」柔は先輩として対応をし始めた。レイニアはまんざらでもない顔をしながら、酒を口に含んだ。その感情表現からも少し幼さを感じるなと柔は感じていた。
「それで、そのエルフさんが長年この大陸で生活していて、わしらを呼ぶようになったのはいつ頃なんじゃ。そしてそれはなぜなんじゃ。」
「それを話すのはもう少し後。いまはエルフがこの国に何をもたらしたのかって話よ。大賢者はこの国に来たのはもっと昔のこと。人間が伝説と呼ぶ時代からいるの。大賢者は人間に魔法を教えることを趣味としたの。変わった人でね、私によく言ってた。できないことを必死に会得しようとする人間はおもしろいって。人間は死が近く他人に思いや思想を継がせることが強み。死の間際に人間は思いもよらぬ力を発揮したり、エルフの至らぬ境地の悟りを開いたりするんだって。魔法はエルフの中でもう極地に到達した。それを越すことはエルフではもう不可能だ。だから、何も知らぬ人間たちに魔法を普及することで、新たな魔法が生まれる。その向こう側を見たいんだって。」
柔にとって、魔法という言葉自体が聞きなれない。意味などなさない言葉で合った。しかし、この世界では連綿と受け継がれてきた技術であり、その裏にはさらに大きな意思が働いていたことを知った。柔には心の奥底で1つの疑念がわき始めた。私に自由は、選択する自由があるのだろうか。
「なるほどの。それで永い時を経て、この大陸には魔法が繁栄したけじゃな。」疑念を抑え、柔は話をつづけることを選んだ。
「そうなの。そして、この大陸の魔法もかなりの高水準となった。私たちエルフに及ばない魔法が大半だけど。でも、数年に一度は傑出した魔法使いを生み出し始めた。だけど大賢者はそれだけでは飽き足らなかったの。大賢者は次元の狭間から別次元の人間を引き込む魔法を編み出した。そして、それが使われたのが20年前。その時の1人目がこの世界の人たちよりはるかに強力な魔法を使え、創造性が豊かで大賢者の予想もつかぬ魔法を編み出したの。今、あなたに転生者とかスキルとかそういう言葉は1人目が定義した言葉たちなのよ。」レイニアは一息ついた。目の前のステーキをカットし始めた。
「つまり、転生者を呼ぶことにより、大賢者は魔法の発展をさらに加速させると踏んだのじゃな。なんとも強欲な話に聞こえるがの。」柔も黄色いトマトのような果実を口に含む。トマトを想像して口に含んだが予想以上に甘かく頬が痛くなった。
「その通りよ。強欲とは私は思わないけど…私たちエルフは大賢者に育てられた後、大国に配置されたの。国ごとに魔法の差ができるのは発展に妨げがあるし、地方ごとに特殊な魔法も生まれてくるかもしれないってことでね。私がゼイン帝国、大賢者が西の賢国バクアラ、そして私ともう一人一緒に連れてこられたエルフはフルデル王国に配置されたの。そのあとは大賢者に会う機会がないの。というより会ってくれないのよね。多次元転生召喚魔法を編み出してから、何かに夢中になってるようなの。」なんでかしらねといいたげな顔をしている。
「ほれ、それが証拠じゃよ。会わないで何かに没頭…赤子を連れてきて今は興味ないなんておかしいんじゃよ。実の親みたいなもんじゃろ?絶対に怪しいがのお。」目を細めながら大賢者を柔は訝しんだ。「それにの、わしらを呼んで、魔法の発展を更に加速させるということじゃがな。それはちゃんと機能してるのか?ほれ、わしが来たとき話してたろ。世界を正しい方向にうんたらとか。うまくいってない証拠じゃねえんけ?」
レイニアはぬぐぐと口をつぐむ。むきになって口を開きかけたが、一旦閉じ、冷静に戻ったらしい。
「あなたの言いたいことはわかるわ。でも!こっちにも言い分がある。まず、エルフって他人の興味が薄いの。だから大賢者がそうなる気持ちは私たちにはわかるわ。興味があるものに没頭していたいのよ。だから、やましいとかじゃないと思うわ。」
少し拗ねたような顔をしているのは本人は気づいていないのだろう。他人に興味が薄いとは言うが、レイニアにはそれが感じられず柔は不思議に感じた。そして少し意地が悪い話し方をしてしまったかなと自戒した。
「そうか、それはすまんかったの。わしも知識がないものでな。」頭を下げる。「それで、結局、わしは何をすればいいんじゃ。」本日の本題だと言わんばかりにレイニアを見つめた。
「まず、大前提に、現実に帰りたがる人はあなたが初めてよ。最初はいろいろ言うんだけど、自分の地位や力を持つと戻りたがらないの。柔もそうなるかなって期待してたけど違うのはわかったわ。あなたは誠実な人。帰れるなら帰るのよね。」
「ああ、帰る。罪を償う。」柔の目は強い意志を宿していた。
「本当のことを言うとね…転生者に目的はないの。自分たちのやりたいことを望んでやってもらってるわ。政に携わる物、軍に入隊する者、人知れない山奥で過ごす者、家庭を作り幸せをかみしめる者。それぞれなの。ただ共通なのは、私たち女神がそれを定期的に観察し大賢者に報告すること。そしてこの世界で死を迎える。それがすべてなの。」
「なるほどな。帰れないんじゃな。本当に。」
「今はね。でも、大賢者なら知ってる、もしくはそのような気持ちを維持してる柔に興味を持つと思うの。だから、可能性はゼロじゃないと思う。」
「あいわかった。おまえさんを信じよう。」こくりと頷く。
「それでね、この世界を正しい方に…ってのもあながち間違いではないの。転生者があなたで20人目。一年に1人ずつ召喚を各国で回しているの。決して多くはないけど…でも異常な力を持ったものが20人もいると思うと多いわよね。」
「なにがいいたいんじゃ。」柔は少し何かを悟ったようだ。険しい顔つきになっている。
レイニアは苦虫を潰したような顔つきになっている。柔が怒ることはとうの昔に知っていたからだ。
「…ある転生者たちを…そいつらを抹殺してほしいの。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます