第2話 単調な迷宮
思えばもうずいぶん長い間、この延々と続く迷宮の中を彷徨っている。長いこと彷徨い続けたせいで、自分がいつからここにいたのかすら、最近でははっきりと思い出すことができない。たしか、背丈が一メートルを越すか越さないかの頃には、この迷宮の中にいたと思う。それが今や、背は伸び、考えることもすっかり大人びて、去年、成人の儀式を受ける年齢になった。
ということは、もうかれこれ十年以上は、彷徨い続けている計算になる。
そんなだから、私はもう出口を見つけることなんて、とっくに諦めていた。それでもまだ歩き続けているのは、ひとえに、後ろから忍び寄ってくる黒壁から逃げるためだ。
それ以外に、この味気ない通路を歩き続ける意味なんて、一つもない。
私は自身を取り囲む無味乾燥な景色に、思わずため息をこぼした。
まず、茶色い土の床。床といっても、地面が剥き出しになっているだけだ。しかし土自体は踏み固められているので、比較的歩きやすい。きっと自分が来る前にも、何人もの人間がこの通路を歩いていったのだろう。
そして、私の両側でそそり立っている土壁。この滑らかな障害物は、遥か前方までずっと、隙間なく続いている。ところどころに、ポストの投函口のような細い窓はあるものの、その向こうに迷宮の外の景色が広がっていたためしは一度もない。いつも向こう側には決まって、ここと同じような迷宮の通路が見えるだけ。非常につまらないものだ。
それにもし迷宮の外が見えたとしても、虚しくなるだけだろう。
この窓は人が通り抜けるには、あまりにも小さい。
私は上を見上げた。するとそこには、青い空が両側の壁の隙間に広がっている。ガラス天井があるわけではない。見た通り、ここには天井がないのだ。だから雨の日には道がぬかるむし、かんかん照りの日は逆に地面がひび割れる。
しかし、天井がないことが、私がこの迷宮に関して唯一気に入っていることだった。そそり立つ壁の合間から見える青い空や白い雲だけが、この退屈な迷宮の中で唯一、開放感を感じさせてくれるものだったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます