第9話 告白


 季節は冬。

制服の上からコートを羽織って登校するも息が白い。

下駄箱で靴を履き替えると名前を呼ばれた。

上りがまちに生徒会長の霧河きりがだ。

『おはようございます。霧河先輩。』

『うん、おはよう。朝は一人なんだね?』

『え?』

『いつもほら、ユエちゃんの傍にはナイトが二人いるじゃない?』

 霧河が笑うとユエは頷いた。


『虎ちゃんとろう君。』

『そうそう。また誘うチャンスがないかな?って思ってたんだけど・・・なかなかね。』

『チャンス?』

 ユエが首を傾げると霧河は頷いた。


『デートにね。って言うのは冗談で、またクマのケーキ食べたいなって。』

『ああ!私でよければ誘ってください。』

 そう言ったユエの肩にぽんと何かが乗る。

振り向くと虎二とらじの両手がするっとユエを抱きしめるように動いた。


『霧河先輩!ユエに何の用ですか?』

『ほら、ナイトの登場だ。』

『そうですよ、先輩。俺たちを無視はできません。』と虎二の後ろから狼が顔を出す。

霧河は苦笑して頬を指でかいた。


『仕方ないな。じゃあ、ナイトたちの前でデートに誘おう。』

『え?』

『ユエちゃん、今日放課後あのケーキを食べに行こう?』

 堂々とした態度に虎二は苦笑する。

『強いなー、生徒会長になると強くなるんすか?』

『さあね・・・で、ナイト君たちはどうするんだ?』

 狼はユエの顔を見て笑う。


『ユエちゃんはどうするの?』

『うーん・・・せっかく誘ってもらったから行きます。』

 ユエの返事に狼は頷くと虎二に目配せした。

『じゃあ放課後に。』と霧河は行ってしまった。

三人で教室へ向かう途中、虎二が聞いた。


『なあ、ユエ?』

『うん?』

『先輩のことどう思ってんの?』

『え?』

 狼はただ黙ってユエの隣を歩いている。

『どう・・・って・・・。』

『好きなの?』

 好き?ええ?ユエの顔が真っ赤になって片手で顔を押さえると虎二をにらみつけた。


『そん、そんなの!知らないよ!!』

 虎二に鞄をぶつけて廊下を走り出す。

バタバタと足が縺れてそこにへたり込んだ。

『ユエー、大丈夫か?』

 傍に来た狼が転んだユエの手を引き上げてコートの汚れを掃う。

『大丈夫?怪我してなくてよかった。』

『ごめん、狼君。』

『いいよ、さっきのは虎が悪い。』

 そう言われて、なんだか違う気がした。


『そんなこと・・・ない。ごめん、狼君、虎ちゃんも!』

 後からきた虎二は、おうとだけ言って頷いた。

 放課後、生徒会長の霧河がユエを迎えに来て一緒に以前行った喫茶店へと入る。

相変わらず女性客ばかりで店内は賑わっている。

注文を終えて席に着くと霧河がユエを見て噴出した。

正確にはユエの後ろ。

後ろの席には虎二と狼、そして虎二の彼女・西島にしじまが座っている。


『まさかのナイト付きとはね。』

 霧河は頬杖をつくとユエにケーキを食べるように促した。

 ケーキは美味しいものの、視線がちくちく背中に刺さるし、周りの女性客たちの視線も何故か集めているようだった。


『ちょ、なんでこんな見られてんの?』『二人がかっこいいからでしょ?あたしちょっと優越感ゆうえつかん?』『西島さんってそういう感じなんだ?』『なに?間山君ってそんな意地悪なの?』


 後ろからヒソヒソ声で聞こえてくる話にユエが笑うと虎二が小さく怒った。

『何笑ってんだよ!ったくよ!』

『ごめん、虎ちゃん。』

 ユエが両手を合わせて笑うと霧河は困ったように呟く。


『参ったなあ・・・。』

『どうかしましたか先輩?』

『うん、どうやら俺は君が好きみたいだよ。ユエちゃん。』

 突然の告白にユエが固まり、その後ろの虎二、狼も固まった。

唯一西島だけが口をぽかんと開けて、近くの席の女性客と同じ顔になった。

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