第3話 水着とアイドル

 夏真っまっさかり。

今年は空が高く気温も上昇している。

青い空を横目に更衣室の前で虎二とらじとすれ違った。

虎二はすでにジャージ姿だ。

『おう、女子はプールだっけ?いいなあ。』

『うん。男子はバスケだよね?虎ちゃん頑張ってね?』

『じゃあな。』


 虎二が行ってしまうと、後ろから合同クラスの女子が声をかけてきた。

『ねえねえ、如月きさらぎさん。今の中山君だよね?』

 振り返ると柔らかそうな髪を揺らして、可愛らしく笑っている。

『うん・・・えっと。合同クラスの・・・西島にしじまさんだっけ?』

 西島は頷くと、ピンク色の唇をにっと横に引く。

『西島カナだよ。ねえ、如月さんって中山君と仲良いよね?』


 更衣室に入って水着に着替えつつ、西島は制服をたたんでいる。

『うん。中学校同じだったから。』

 ユエは着替え終えると制服をたたんで置き、ゴーグルを片手に西島と歩き出した。

『そっか・・・あのさあ、中山君としたいんだ。してくれる?』

『協力?』


『そう。駄目かなあ?女子で仲いいのって如月さんくらいだし。』

『ああ・・・でも協力って何するの?紹介すればいいの?』

『うん。』

 西島は嬉しそうに笑うと頷いた。

 可愛い子だな、とユエは思う。

柔らかそうなサラサラの髪に白い肌、小動物みたいな瞳にピンクの唇。

誰がどう見ても美少女の西島は、女子の中でも視線を引いている。

すらっとした体に水着姿はアイドルのようだ。


 授業が終わり、バスタオルを肩にかけて西島と廊下を歩く。

けらけら笑いながら虎二と狼がユエたちを見つけて手を上げた。

『おー、なんか涼しそうだな?』

『うん。バスケ暑かった?』

 ユエの言葉に狼が頷く。

『うん、でも白熱したよな?ゲームになったから。』

『そうそう、狼はバスケ上手いんだよ。』

『そっか。』


 隣にいた西島が肘でこつんとユエの体を小突く。

ああ、と頷くと西島を紹介した。

それに続き西島もにこりと笑う。

『西島カナです。中山君、間山まやま君、別のクラスだけどよろしくね?』

 虎二が頷き、狼は笑った。

『よろしく。そろそろチャイム鳴るから急いだほうがいいよ?』

 西島は腕時計を見ると、じゃあねと行ってしまった。


『美少女だったな?』

 狼が虎二を小突く。

虎二はああーと笑うと、ユエの肩からかけているバスタオルをユエの頭にかけて、ワシワシと拭いた。

『ああっ!いいよ!髪くしゃくしゃになっちゃうよ!』

『でもちゃんと拭いとけ。ユエ、西島って友達なのか?』

 虎二がバスタオルを動かしながら聞いた。

顔が見えないがいつもよりトーンが低い。


『うん、さっき授業でね。どうしたの?』

『いいや。ほら、俺らも戻ろうぜ。』

 ぐいっとバスタオル越しに体を押されて教室へ戻る。

席に着いた虎二はなんだか不機嫌そうに見えた。

放課後、西島は教室にやってきてユエと話してから虎二の傍に行く。

何か話した後、虎二は鞄を持った。


『ユエ、悪い。今日は西島と帰るわ。』

『うん。じゃあ、また明日ね。』

『じゃあね?如月さん。バイバイ。』

 虎二と西島が教室を出て行く。

ユエは鞄に必要なものを詰め込み、机の中の教材を手で抱える。

鞄を肩にかけて教室を出ようとすると狼と出くわした。


『あれ?ユエちゃん。虎は?』

『うん、西島さんと帰ったよ。私も今から帰るとこ。』

『そっか、俺も帰るから一緒に帰ろう。』

『うん。』

 狼は急いで帰り支度をすると、鞄を持ってユエの傍に来た。

『帰ろうか。』

『うん。』

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