如月の虎と狼

蒼開襟

第1話 虎と狼

 高校二年、如月きさらぎユエ。

新学期にクラス替えは少し憂鬱ゆううつだった。

仲の良かった友達と離れて、殆ど面識のないクラスメイトたちと馴染なじめるかはユエの中で問題だったが教室に入ると、どこか今までと違う雰囲気に驚いた。


『おはよう。今日からよろしくー。』

 教卓の傍にいた女子の一人がユエに笑いかけると、他の子たちも同じようにする。『よろしくね。』顔を確認しながらとりあえず自分の席に着く。

出席番号で振られた席は窓際の方で、ユエは机に鞄を置いた。


『お、久しぶりじゃん。』

 聞き覚えのある声。隣を振り向くと、背の高い男子がユエを見て笑った。

『うん?ひ、久しぶり?』

 彼は席に座ると苦笑いして首を傾げる。

『あ、覚えてないの?俺、虎二とらじ中山虎二なかやまとらじ。』


 虎二?記憶の隅にあった名前が湧き上がってくる。

中学生の頃の虎二の姿が思い出された。

中学校のジャージを着て、短くした髪によく日焼けしたスポーツ少年。

『ああ、とらちゃん。』

 目の前の虎二は中学生とは違い、随分とガッチリとして髪も少し長めだ。

日焼けしているのは変わらないが、左耳のピアスが少し大人っぽく感じられた。


『そう、その虎ちゃんだよ。よろしくな。同じ学校って知ってたけど、同じクラスになって・・・なんか嬉しいよな?』

『うん。あ・・・。』

ユエは周りを見渡して小さな声で聞いた。

『えっと・・・中山君のほうがいい?虎ちゃんって呼んじゃったけど。』

 その言葉に虎二は破顔した。


『いいよ、別に。俺もユエって呼ぶし。いいよな?』

『うん。』

 前は名前で呼び合っていたが、少し声色の変わった虎二に心臓が早くなる。

とても不思議。

『よろしくね。虎ちゃん。』

『ああ。あ、そういや、あいつもいるよ?』


 虎二は体をひねって後ろを振り返る。

教室のドア近くに座っている男子に声をかけた。

『おーい、ろう!』

 ロウ?ロウって・・・もしかして。

 席に座っていた狼はゆっくりとこちらへ歩いてくると、虎二の肩に手を置いてユエの顔を見ると笑った。

『あ、ユエちゃん?』

『ロウって・・・狼君ろうくん?え?同じクラスなの?』

『うん。』


 間山狼まやまろう

彼も同じ中学校だった。

虎二と同じでジャージを着て、サッカー部で校庭をよく走り回っていた。

日焼けした顔にサラサラの髪が印象的だったが、今、目の前にいる狼は虎二と同じくガッチリとして背が高く、前髪を長くしてセンターで分けている。

少し色が白く優しそうな印象だ。


『わあ、久しぶりだね。』

『うん。本当に。同じ学校でもクラスが一緒にならないと中々なかなか会わないもんだね?』

『本当に。二人がいるなんて知らなかった。これからよろしくね?』

 狼が頷くと虎二が歯を見せて笑う。

『当たり前だろ?』

『まあな。虎二はユエちゃんがいるの知ってたのか?』

『ああ。一年の時に聞いたから。』


 虎二と狼が楽しそうに話している。

目の前の幼馴染が中学生の頃とは違って、ぐんと素敵に変わっていてユエは少し気後れしそうになる。

『うん?どうしたユエ?』

 ユエの表情が曇ったのに気付いた虎二が顔を覗きこんだ。

『ああ・・・二人とも素敵になったから。私はあんまり変わってないし。』

ユエが俯きそうになると狼が言った。


『ユエちゃん、顔を上げて。ユエちゃんは綺麗になったよ?三人ともいい感じになってるって。なあ?虎。』

 虎二はハハと笑うと頷いた。

『うん、当たり前じゃん。だから俺も一年の時に・・・。』

そう言いかけて虎二は口を閉ざすと狼の胸を叩く。

『ほら、そろそろ先生来るぞ?』

『そうだな。じゃあ後でね、ユエちゃん。』

 狼が席に戻ると丁度先生が入ってきてホームルームが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る