海神の仕事と葛藤

あれから数日、少しずつ村が見えてきた。


「やっと着いた…いくら神とは言え疲れるなー…」


綿津見が振り返り海音の顔を見ながらわざとらしく肩を回す。



「僕は綿津見と違ってまだ若いから平気だよ。」


海音はツンとしながら嫌味を言う。



「いつまで呼び捨てなんだよ…

まあ、嫌味言えるくらいには仲良くなったって事でいいか?」


いつものようにニカッと笑う綿津見。



「別に…。」


海音はそう呟き、綿津見を抜かして歩き続ける。



村に着くまでの2カ月間、海音は頭が割れるくらい考え…ある決心をしていた。


(僕は…生きる…死んでお父様とお母様に会った時、恥ずかしくないようにするんだ…。)





あいーっ!!あい!!」


浜辺から女の人の叫び声が聞こえてきた。



「誰かッ!藍が…藍がああっ!!海にッ!!」


よく見ると小さな女の子が溺れているのが見えた。



「おかあさッ…ごぼぼッ!…たすけてっ…」



小天おあま!行くぞッ!!」


「はいッ!!」


その時、2人の男が海に飛び込んだ。



その光景を見て海音はフラッシュバックし、その場に立ち尽くしていた。



「海音!海音ッ!!」


綿津見が必死に海音の肩を揺らす。



「わ…綿津見…。」


不安と恐怖で足が竦み動けない。



「俺達も行くぞ。」


海音の腕を引っ張り連れて行く。

海の中から人間に見つからないように女の子の元へ近づく海音と綿津見。


女の子の足元を見ると悪霊に足を引っ張られている。



「いいか、海音…こういう人間を守っていくのも海神の仕事だ。

ここで死なれたら悪霊の餌食になって魂が冥界に来なくなるからなッ!!」


そう話ながら持っていた杖を振りかざし、海水が矢のように飛んでいき悪霊を貫く。


「後はあの男達に任せよう。」


その場を少し離れて3人の行動を見ていた。


男達は近くの岩場に女の子を置いたあと大きい波に飲み込まれ沈んでいった。



「あの人達は…?死んじゃうよ…」


海音が助けに行こうとした時、綿津見が肩を押さえ止めた。


「残念だが…自然に起きたことは俺達も介入してはいけない。

あの男達の運命なんだ。」



「そっか…。」



「でも…あいつらにはいつか会えると思うから安心しろ!」


俯く海音の頭をポンポンと撫でる綿津見。



「僕、決めたんだ。

海神になって生きて…死んでお父様とお母様に会った時恥ずかしくないようにって…

なのに…何もできなかった。やっぱり怖いんだ…夢幻も許せない…まだ少し混乱してるみたいだ…。」



「あんな事があった後だ…仕方ない事だろ?

でも、お前は強くなるって決めて…あの男達を助けようとしたじゃないか。

それだけで十分だ。」



「うん…。」



「そんな顔すんなって!トラブルはあったけど、お前が守る海と村はこんなもんだ!

じゃあ…大本命のあの場所に行くとするか。」


「大本命…?」



「ほら、行くぞ!!」


「ちょっと待ってよ!」


深く沈んだ海底の岩に綿津見がつけていた鍵の形をしたペンダントを、

岩に鍵を差し込み回す。


「何やってるの…?」


「これからすっげえの見れるから…!」


このまま飲み込まれてしまうのではないかと錯覚するような大きい門が一瞬で現れた。


ゆっくりと扉が開いていく…。


「な…なんだ…これ…いつ出てきた…?」


「そんなジロジロ見てないで!さっさと入る!」



「うわあッ!!」


綿津見に背中を押されて門を潜るとそこには…














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