第21話 どこまでもバカな男

 子息はサーベルを床に落とすと、頭を伏せて膝と手をついて懇願。


「僕の心を研魔してくれぇ! でないと僕は生きていけない!!」


 私は師匠の肩越しに子息を見下ろすと、次にダーケスト様の顔を覗く。

 師匠は疑る顔で子息マッテオを見て聞いた。


「聞きたくない……聞きたくないが、何があった?」


 わざわざ二回も。


「話せば長くなるが……父上の怒りを買い。屋敷を追い出された」


「なるほど、お父上に勘当されたか?」


 短い話だった。

 それはそれとして、私はまず知っておかねばならないことがあって。


「あの、何でサーベルの刃を出したまま来たんですか?」


「あぁ……これは失礼。屋敷の外へ放り出されて以降、食事の際はスプーンもフォークも無くてね。こうやって、拾った物を食べている」


 子息はどこからともなく出したキノコを、サーベルの先に刺して、腕をめいいっぱい伸ばしながら口へキノコを運ぶ。


 どうみても食べてヅラそう。


 剣の装飾から見ても由緒正しきサーベルなのだと思うけど、なんとも痛ましい光景だ。


「そうでしたか。私はてっきり師匠へ報復しに来たのかと」


「報復も考えた。しかし、外の環境で生きる苦痛に我慢ならず、いつしかよこしまな考えは消え去っていた」


 とんだ箱入り息子。

 そんな情けないことをドヤ顔で言うくらい、恥も外聞も失ってしまったよう。

 おまけに、さも長い放浪を続けたように言っているけど、舞踏会のできことから三日しか過ぎていない。


 心折れるのが早すぎるような?


 止めどない悲哀をかもし出すマッテオは、ダーケスト様へ聞いてくれと言わんばかりに、身の上を語る。


「大勢の婚約者も、僕が勘当されたら罵詈雑言の嵐だ。誰も慰めの言葉をかけてくれなかった」


「あぁ、婚約者アベンジャーズか」


「婚約者あべ? なんだソレは?」


「ただの言葉遊びだ。忘れろ」


 そりゃぁ、『女は教養なんていらない』だの『笑ってるだけでいい』だの声を大にして言ったのだから、婚約者アベンジャーズも報復するでしょうよ。


 子息は深々と頭を下げながら言った。


「町で魚人の研魔職人の噂をたどり、この工房を探しあてたのだ。どうか慈悲を。父上から屋敷に戻る条件の一つに、心の宝石の研魔をしてこいと言っていたのだ」


「ほぉ? お父上もなかなか人が悪いな。貴族連中からすれば、研魔士は下郎の仕事。その見技を受けてこいとは、身分を隔てる事実上の絶縁。研魔術を受けたところで、屋敷に戻れるかわからんぞ?」


「そんなこと考えるヒマはない! 屋敷に戻れるなら、なんでもやる」


「わかった」


「おぉ! やってくれるか?」


「断る」


「そうかそうか、断るのか…………何ぃ!?」


「散々、我のことを侮辱した相手に、なぜしをほどこしをせねばならん。わかったと言ったのは、貴殿の工房ここへ辿り着いた経緯だ。それと仕事をするのは別だ」


「か、金か?」


「いや、職人としての誇りの問題だ。それに、今の貴殿は金など無いだろ?」


「金なら、この剣をやる。これは我が一族伝来の秘宝。いわばエレメル家の魂。父上も身を守る為に、これだけは持参を認めた。売ればそれなりの物になるだろう」


「お前、それでさっき拾ったキノコを食ってたろ? なんか気にいらん。というか、売って金に変えてから来い」


「一刻も早く研魔を受けたいのだ! もう、野宿も野生動物に食われる恐怖も耐えられん。助けてくれ。神秘の力、研魔術に頼るしかないのだ!」


「いつぞやは詐欺まがいの怪しい術と言って、今度は神秘の力か? 全く都合の良いことで。自業自得だ。せいぜい、屋敷の外で長生きするすべを学べ!」


「えぇい、性悪の魚人め! 貴様に慈悲や慈愛の心は無いのか? 一度、自分の心を研魔にかけろ!」


 私は仲裁の意味も含めて口論に割って入る。


「研魔職人は自分の心を研魔できません!」


「は?」

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