殺し続ける自分と生き続ける君

黒糖。

第1話:プロローグ

窓から見えるのは真っ青な空と色付いた稲。

電車から見える落ち着いた景色は、まるで僕の張り詰めた緊張や恐怖を嘲笑っているみたいだった。


「こんな綺麗な日なら丁度良いよね。」


横の席でそう笑う友人。心底安心したような声と反対に絶望を含んだ笑顔は、きっと何もかも諦める癖のせいだったんだろう。

どこか嬉しそうに見えるその友人は、死にに行くんだから。


「...どこか食べに行こうって言ってたのに、嘘つき。」


思わずちょっと不機嫌な言い方になった。

仕方ないじゃんか。本当はあの日一緒に遊びに行く約束だったんだ。


「えー、だって行きたかったところ反対方向だし。1時間待たなきゃだし。そうしたら死にに行く時間ギリギリになっちゃうし?」


「あと5分早く家出てたら乗れたのに。」


「そもそも30分に一本電車があれば良いんだよ、変えて?」


そんな滅茶苦茶なことを言う友人に笑って、あまり入ってないペットボトルの蓋を回す。死に向かって進んでるんだ、喉が渇くのも仕方がなかった。


「向こうについたらお昼食べよ。最後の晩餐だし豪華なのが良いな。」


そう言ってスマホを取り出した友人。

自分も「食べたいものは?」と聞きつつ、空になったペットボトルをリュックに入れる。数本のペットボトルで圧迫されたリュックに自分の緊張を再認識させられた。


「食べ放題とか行きたいな。」


「小食のくせに。まあ良いよ。」


「やったー」なんて喜ぶ友人を横目に周辺の食べ放題を調べる。

ずっと心拍数が上がってるのに食べれるとは思えない。でも一緒に食事をして気が変わるかもしれない。それにしっかり笑顔で言わて断れる理由もなかった。

でもさすが田舎町、バイキングなんて近くに全然ない。食事系なんて近くても20kmは先の場所。


「んー、ケーキバイキングとか出てきちゃった。」


「最後にケーキ?良いかも。あー、でもせっかくだから地元の料理店みたいなところにしようかな。着いてから歩いて探すのどう?」


「わがままだなー、良いよ。」


30分で駅に着く。もしかしたら喋れる時間なんて後2時間もないのかもしれない。そんな不安を見て見ぬふりして「あ、宿題やってない」なんてくだらない話題を口にしていた。

そんなことは今どうでもいいなんて分かっていた。それでも喋ったのはきっと、喋らなければ自分が不安に押しつぶされてしまうからだ。



これはそんな自分の、「死のうとした友人を、後に夢で殺し続ける」話。

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殺し続ける自分と生き続ける君 黒糖。 @kokutoumaru

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