第4話 クロの場合

「俺、中学入ったらダンジョンに潜るわ」

「ダンジョン?」


シロと出会って5年程経った夏。

俺は12、シロは8才になっていた。

ちなみに出会った頃のシロはナニーに虐待ネグレクトを受けていて、朝から夜まで外にいる事を強要されていた。

それで動物に守られながら公園にいたらしいんだが……虐待してたナニーはきっちり告発し、問題ありありな両親に関してもが入るよう手を回した。

なんなら、桜子さんに頼んでシロ自体は保護施設に保護させてもいる。

3才だったシロが賢くなけりゃ死んでたぞ、あの環境。


「満12才ってのが、ダンジョンに探索目的で入れる最低年齢なんよ」

「へぇ〜」

「そろそろ将来見据えた将来設計考えねェとだかんな」


若い内に生涯年収を稼ぎ、後は悠々自適に暮らすのが理想だ。


ハイリスクハイリターン。


それを体現していて違法性もないのが探索者という選択肢だった。

何より、俺自身を資本に出来るのが魅力的だ。


「とりあえず初ダンジョンは部活動で潜るのが1番文句言われにくいし、そっからD級探索者の資格までは卒業までにとる予定」

「クロはスゴイな」

「なァんも凄かねェよ。

ガキだから早く大人になりてェだけだ」


ガキだから、早く借り物の生活を脱したい。

それが俺にとっての大人だから。


「オレもなれる?」


保護施設の中庭。

木陰のベンチに腰かけてた俺達。

木漏れ日が照らすのは、出会った頃からは考えられない子供らしく少しふっくらしたシロで、金色の目が自分の未来を見据えようとしているように見えた。


何者になるのか。


桜子さんはそれが人生のテーマだと言っていた。

何でも良いから自分で自分の在り方を決められれば、それは例え周りから不幸だと言われたとしても当人には幸せな事だと俺に言った。

だから、俺は“俺”になろうと決めたのだ。

自立し、テメェでテメェを食わせられて、そんでもって両手に抱えられる程度は守れる俺であろうと。

それが俺にとっては探索者だっただけ。


「なれるさ」

「ホント?」

「探索者はテメェの命をベットして金を稼ぐ職業だ。

生きてりゃ誰でもなれる」

「いきてれば……」


そう。

探索者は生きていれば誰でもなれる。

ダンジョンに潜った以上は全部自己責任になり、怪我しようが死のうが誰も補償しちゃあくれねェ。

弱肉強食に身を浸す覚悟さえキメれば本当に誰でもなれるのだ。


ただし、ダンジョンルールには従う必要があるので運営が決めた年齢制限は発生するが。


「めちゃくちゃ痛いし、辛い事もあるぜ?きっと」


食うか食われるか。

強くなけりゃ食われるのがダンジョンだから。


「そうか」

「そうさ」

「……」


だから、お前は同じ道に来なくても大丈夫なんだぜ?

最悪、俺が食わせてやるから。

……とは、口に出来ない。

シロが生まれちまったから。


「オレは、ニャーコがいなかったら、たぶんしんでた」

「……」

「ニャーコがあそこからつれだして、どうぶつたちとあわせてくれて、んで、クロとあわせてくれた」


だから生きているとシロは言う。

まァ、確かにあの環境はいつ死んでてもおかしかなかった。


「だから、いきてればなれるなら……」


それはきっと、オレがなるべき仕事な気がすると言った後、シロは真っ直ぐな目で俺を見上げる。

“The blessing of the dungeon”の特徴詰め込んだちっさなガキ。

日本人の両親から生まれたのに褐色の肌に金色の髪、太陽みたいな金眼を持った祝福された子供。

幼いながらに猫化の肉食獣を彷彿とさせるその金眼は、出会った頃にはもう宿命を宿してしまっていた。


「だからクロはさきをあるいてくれるんだろ?」

「ハッ!俺の話聞いてたか?」

「きいてて、おもった」

「……」

「クロ、オレはまけないタンサクシャになるよ」


祝福受けた子供はどんな人生歩んでも須らく探索者になっている。

コレは歴史が物語っている事だ。

んで、若い内に覚悟キメられなかった奴から死んでいった。


「すぐ、おいつくから」

「そうか」


俺は、両手に抱えられる程度を守れる“俺”になる。

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