第2話 ソラの場合

「な、な、なんだお前っ」

「なんでも良い。

その手を離さなければ通報するが?」


スマホを見せ、ライオンさんはオジサンを睨みつける。

見上げる程に大きなライオンさんは身長が2m近くあるんじゃないだろうか?


「ひ、ひっひぃ!!」


そりゃあ、怖いよね。

僕も怖くて足ガクガクだもん。

見た目完全に真っ当なお仕事してない系だもん。

なんなら夜なのにサングラスかけてるんだよ?

這うように逃げ出したオジサンにはちょっと同情する。


「子供がこんな時間にあまりウロウロしない方が良い。

悪いオトナは山ほど居るぞ?」

「あ、ありが、と?」


凄い迫力のライオンさんに気圧されたんだけど、足元にたくさんのワンコやニャンコを纏わせてる事に気付いて拍子抜けした。

何このファンタジーなライオンさん。

てか、肩に鳩とかインコとかとまってるんですが?

なんなら、ワンニャンの中にタヌタヌやコンコンもいるみたいですけど?


「あ、シロさんちーっす」

「ぶはっ!また動物にたかられてるっ!」

「先生、その抱えてるの子猫じゃね?

まーた拾ったんかよ」

「カラスがまた発狂すんな、うん」


通行人の何人かはこのライオンさんを知ってるらしく、気軽に声をかけては通り過ぎたり足を止めたり。


「さっき、路地裏で見つけてな。

親もいないと言うから拾ったんだ」

「誰から聞いたんよ?」

「その辺の野良猫」


………このライオンさん、猫の言葉分かんの?


「見た目いかちーのに、ホント不思議ちゃんだよなぁ?先生」

「こんなだからカラスが苦労すんだぜ?絶対」


ゲラゲラ笑う人達は、“先生”と呼ばれたライオンさんの手元を覗き込み、ちっちぇー!とか声を上げている。


「ところで、このガキどしたん?」

「!」


そんな集まった人達の中で、何人かが呆然としてた僕に気付いたらしい。

未成年だろ?なんて僕を囲んで見下ろしてくる。

……繁華街を彷徨くようになって見慣れてたけど、明らか夜の商売な方々に囲まれて見下ろされるのはちょっと怖いです。


「拾った」

「「「人間は簡単に拾うんじゃねーよ!」」」


ビビる僕の頭をグシャッと撫でて、落ちてたんだとライオンさんは言う。


「とりあえずギルドに行こうか」

「え?」

「探索者ギルドには未成年の保護施設があってな。

親に連絡する事なく、子供なら食事と宿は提供してくれるんだ」


夜の街をウロウロする位ならあそこで保護して貰いなさい。


「逃げ出す事が出来るのも強さだよ」


自分を大事にしなさいと告げて、ライオンさん……シロ先生はゆっくりと歩き出した。


「辛い時は逃げて良い」

「ッ!!」


立ち尽くす僕においでと声をかけてくれたシロ先生は、初めて僕の悲鳴に気付いてくれたオトナで。


「にゃにゃあ」

「わっふー!」

「この子達も逃げるが勝ちだと言ってるぞ」

「……っ、なに、それ」


僕の“カワイイ”に初めてカテゴライズされた人だった。

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