第9話

 ふぅ……まったく。倒すのはいいけど、もう少し綺麗に倒してくれないものかな。

 こんなあたり一面に肉片を飛び散らせて……掃除する方の身にもなって欲しいものだよ。

 ま、向こうからしたら僕がこうして掃除しているなんて、夢にも思わないだろうしなぁ。


 それに命がけで戦ってるんだし、綺麗に戦えなんて言われても困るよねぇ。

 しかたないしかたない。管理人として、ここは僕ががんばって綺麗にしないとねぇ……。

 って、うわぁ! びっくりした!



 なんで何も言わずに横に立っているんだお客人、驚くじゃあないか。

 『なんだか忙しそうだったから、声をかけにくかった』? いや、それは嬉しい気遣いだけれども。

 まあ、見ての通り僕は今、冒険者が倒したモンスターの死体を片付けているところだよ。


 ひとりごと? ……あはは、聞かれてたのかい? 恥ずかしいな。

 そりゃあ僕だって、文句ぐらい言いたい時もあるさ。

 見てくれよ、この通路のありさまを。たぶん鈍器で思いっきり殴って倒したんだろう、あっちこっちに血やら肉の破片やらが飛び散って酷いだろう?


 これを一つひとつ集めて、このゴミ箱に入れて持ち帰らなきゃいけないんだよ。

 そりゃあ、文句のひとつも出ようってものさ。



 え? お客人たち冒険者は、こんな通路だって気にしないって?

 僕が気にするんだよ。汚いのが普通なダンジョンだって思われるなんて、ガマンできないからね。

 そりゃあ管理人の中には、掃除をサボってダンジョンが汚れもおかまいなし、ってヤツもいるけどさ。


 僕たちダンジョンの管理人にとって、ダンジョンってのは自分の家みたいなものだ。

 家が汚れたら、誰だって掃除するだろう? 僕のこれだって、仕事とは言うけどそれと似たようなものだと思って欲しい。

 うん? 君は宿屋に住んでるから、掃除なんてしたことない?


 あー、それならわからないのも当然か。

 そうだよね。宿屋なら基本的に部屋は綺麗にして貰えるもんねぇ、人によりけりだとは思うけど、そもそも掃除するって感覚があまりないのか。

 なるほどなぁ。ちょっと勉強になったよ。



 ……いや嫌味じゃなくてね、本気でなるほどなと思ったのさ。

 僕も管理人として長くやってきたけど、やっぱり冒険者よりも一般人の方が感覚的に近いんだろうね。

 こうやってお客人と会話をしてから、そういう部分に気付かされて感心するばかりだよ。



 それじゃ、そろそろ掃除をはじめようかな。

 お客人はどうする? 見ていて気持ちいいものじゃあないと思うし、この深さならお仲間も一緒だろう?

 ……うん? 手伝うって?


 いいよいいよ、さすがにそれをして貰ったら僕が管理人である意味がない。

 それに手伝ってもらうほど大仕事ってわけでもないからね。このくらいなら、魔法を使えば簡単なものさ。

 たぶんそんなにかからないし、見てて面白いものでもないよ?


 まあ、うん。お客人がそれでもいいっていうなら、見てってくれてかまわないよ。

 それじゃあ失礼して……『道具たちよ、舞え!』



 これでよし、と……なんだいお客人? そんな驚いた顔をして。

 今使った魔法はなんなのか? 掃除用に僕が作った、まあ簡単に言うなら掃除道具が自動的に掃除をしてくれる魔法さ。

 さっき一つひとつ集めて……なんて言ったけど、実際僕は最後に小さな破片を集めるくらいで、後は魔法で動いている道具任せなんだよね。

 僕たちが使っている通信用の魔法を使っているお客人たちなら、こんな魔法も使えるだろ?



 ……え、嘘。知らないの?

 そんな限定的な魔法なんて、使い道がないから誰も注目しない?

 言われてみればそうだね。僕みたいに大規模な掃除を一人でする奴でもなきゃ、使わないよねこんな魔法。


 大きな建物に住んでるなら、使用人とか雇って掃除をして貰うだろうしねぇ。

 うーん、やっぱり僕ってお客人たち人間とは感覚が違うんだなぁ。改めて思い知らされちゃったよ。



 っとと。道具任せにしないで、僕もやらないと。

 いやなに、道具は大雑把には掃除してくれるんだけど、細かいところは見落としがちなんだよ。

 しょせんは自動的に動いてるだけだからね、しかたないと言えばそうなんだけども。


 ちなみにこの状態で横を通っても、普通なら誰も気づかないよ。

 この掃除道具も当然、人間であるお客人たちとは次元が違うもので構成されているからね。動いているのを見るのもできないはずさ。

 気付いたら、いつの間にか通路が綺麗になっていた……なんて経験はないかい?


 それはこうして、お客人たちが認識できないうちに管理人が掃除していたんだよ。

 ふふ、今まで不思議な現象だと思ってただろう? 謎が解けて良かったね。

 ……ま、僕と別れたらまた忘れて不思議に思うんだけども。



 え? 覚えたままにして欲しい?

 ダメでーす。この間、お客人にしてあげたのは本当に特別なんだ。

 たぶんだけど、あの後しばらくは頭痛が酷かったんじゃない? やっぱり。


 それは僕という存在を少しでも覚えていたことで、お客人の脳にとんでもない負荷がかかったのが原因さ。

 だから本来、ああいうことはしちゃいけない。あの時は、僕のワガママでやってしまったけどね。

 こんなしょうもないことを覚えていたって、何の得にもなりはしないだろう?


 たぶん次は、もっと酷い頭痛に悩まされると思うよ。それも一週間以上はね。

 それじゃあ君も困るだろ? だからダーメ。



 おっと、話してる間にだいぶ綺麗になったね。

 あとは僕が細かいところをやって終わりかなぁ。あ、ほらこことか肉片が残ってる。

 ちなみにこのゴミ箱は、お客人たちが使ってるアイテム用の袋と一緒で、見た目よりもかなり容量があるんだ。


 大きな物……そうだな、例えばオークの死骸だってまるまる三体は余裕で入るんだよ。

 見た目がゴミ箱だから冒険のお供に持ち歩くのは、ちょっと不便だけどね。


 それはそうと、お客人もそろそろ戻った方がいいんじゃないかな?

 お仲間も待ってるんじゃない?



 うん。それじゃあまたね、お客人!

 よい冒険を!





◇◇◇◇◇


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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