第54話:鉱石の《星》と別れて、さて次の《星》は?
街を出て、星間列車の駅に戻る。
「じゃあ、今回の《報酬》だね」
「ああ、毎度悪いけどよろしく」
私はキズナから受け取ったギフトボックスに手を当て、この旅を思い返す。
飾り立てられた宝石たちがとても美しかった鉱石街。
どの建物も道も、すべがキラキラと色とりどりにきらめいていてとてもすてきだった。
時計台の宝石のステンドグラスで描かれた景色はずっと忘れないだろうな。
パワーストーンのお店の店長さんは、とても優しく私を導いてくれた。
店長さんはその後の展開を予想してたのかしら?
原初の鉱脈の光景には圧倒された。鉱石の本当の姿とか力強さがつまった景色。
鉱石は美しさだけじゃ無いんだと、そんな主張をしているようだった。
始まりの渓谷は大変だったなあ。
願いを求める採掘士ワンデルさんとの出会い、そして鉱石たちの暴走。
まさか、そこから《星》のコアにまた会えるなんて思ってなかった。
鉱石に命のような物があるって実感させられた、あの熱さはすごかった。
もらった石のことを思い出す。
私はこのあとどんな旅をしていくのだろう。
ぜんぶがふっきれたわけじゃない。自分が何かもわかっていない。
でも、私はきっとなんにでもなれるんだろう。だから私はまず旅を楽しもう。
その中で得たもの、楽しかった思い出をぜんぶ私にしていこう。
新たな旅への想い。
手の中のギフトボックスが熱くなり、思い出のエネルギーが心の中から湧いてくる。
暖かくて冷たい、そろそろ慣れてきた不思議な温度。
目を開けると、その中には紫と濃い青の液体がたまっていた。今回はかなり多いような気がする。だいぶ満杯に近づいてきているような気がする。
「ありがとう。この感じからすると、今回は結構楽しんでもらえたのかな?」
キズナがギフトボックスを受け取って眺めている。
「うん、今回も大変だったけど、すっごく楽しかったよ。どこもとってもきれいだったし、忘れられない思い出だよ」
「そっか、それならよかった」
キズナがギフトボックスを鞄の中にしまう。
私も店長さんにもらった始まりの渓谷への鍵と、《星》のコアにもらった大切な石をトランクにそっとしまった。
次に見返すとき、私はどんな思いを抱くんだろう。
「よし、それじゃ行こうよ!」
私は元気よく言った。
「ああ、行こう」
キズナも短く答えて帽子をかぶりなおす。
駅をくぐり星間列車に乗る。この《マボロシの海》を駆ける流れ星。
ベルの音とともに、ガタンと言う揺れ。そして星間列車が動き出した。
あっという間に、鉱石の《星》は遠くなっていく。
遠くからでもわかるきらめく鉱石たち。その景色はまさに星のようだ。
あのきらめきから離れるのが、もったいなくて、そんな気持ちを抑えるためにキズナに話しかけた。
「ねえ、キズナ。次はどんな《星》に行くの?」
「秘密さ」
キズナの答えは端的だった。
「秘密? どうしたの優秀なツアーガイドさん」
「それやめて。こほん、まあ変に誤解されても困るから言うけど、次の《星》は秘密の《星》っていう《星》なのさ」
「秘密の《星》!? なにそれ面白そう! どんなところなの?」
前のめりに聞く私に、キズナはニヤリと笑ってこう告げた。
「秘密さ」
だよねー。絶対これが言いたかっただけだよね、もう!
まあ、聞いてもこれ以上教えてくれなさそうだから、追求はあきらめた。
でも、わくわく感は高まる一方。どんな秘密がどんな謎が私を待っているんだろう。
秘密って不思議に心を引きつける言葉だよね。
窓から外を見る。
だいぶ《星》からは離れてしまっている。
それでも遠くにはっきりとわかるきらめき。
あそこには、すべての鉱石が宝石が集まり、飾られ求められ願いを託されているんだ。
鉱石の《星》は、本当に美しかった。最も美しい《星》の名に恥じない《星》。
でも、きっと、それはただ宝石がきれいってだけじゃない。
石がたどった歴史、込められた想い、そしてこれから込められる願い、その時間と空間を越えた心が、鉱石たちをすてきなものにしているんだと思う。
そのきらめきは人に強さと、やすらぎを与えるだろう。
人はきっと疲れたとき、夢を見たいときにこの《星》を訪れて、そして自分だけのとっておきの未来をお土産に帰るのだろう。
私もいつか願いをかなえたくなる日は来るだろうか?
そのときは今度こそ、願いの石を求めるのだろうか?
いや、違う。私はきっとこの《星》に願いの必要の無い私としてくるだろう。
この先の旅の楽しさを自分だけの鉱石として、その輝きを出会った人たちに伝えるために。
そんなすてきで輝いた未来のために、今は次の旅に行こう。
旅の間に一眠り。
私はきっとあの鉱石の子供たちと、きらめく街で遊ぶそんな夢を見る。
そんな予感があった。
さようなら、鉱石の《星》。いつかまたきっと。
マボロシの旅はいかがでしょうか? 季都英司 @kitoeiji
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