第52話:あなたにあった鉱石をどうぞ
「確か、この光たちはこれから鉱石になる原石の元なんだよね? その子たちをそのまま石に宿らせておいて、いつかワンデルさんに願いができたときに、その願いに応えられるパワーストーンに成長してもらうとかできないかな? もしくは願いをかなえるという願いをかなえる鉱石ってこととか」
私はアイデアを告げる。
「いや、スフィア。それはどうだろう」キズナがぼやく。
「さすがにそれは、無理があるんじゃ」ワンデルさんまで懸念を示す。
『――考えたことも無かった』ついには《星》のコアさんにまで言われてしまった。
うーん、いい考えだと思ったんだけど。
鉱石の元になる赤ちゃんがいるなら、その力でいつか願いをかなえる石になれる可能性を持った石になってもらうって感じで。
「だめかな?」
しばらく《星》のコアが沈黙する。
『――いや、できますね』
「できるのね!」
『――やったことの無い試みですが、まだ方向性を持たない小さな光を原石に宿らせ、いつかの願いに反応するように眠らせておくことになるでしょう。それでよければ』
「ありがとう! どうかなワンデルさん」
私と《星》のコアの会話を、キズナが通訳する。
私が話せば良さそうなもんだけれど、きっとキズナは私の伝達能力を信用してないよねこれ。まあいいけど。
「そんなことが、できるのか……」
ワンデルさんは理解できないといった顔をしている。
「まあ、ここは《マボロシの海》だしね。しかもここは鉱石の《星》のコアさんのいる場所、何があっても不思議じゃないでしょ?」
「なら、お願いしたい! 今は何も無いのかもしれない。でもこの先、いつか生きていった先で本当にかなえたい願いができたときに、俺の助けになる力をくれないか」
ワンデルさんが地面に頭を付ける勢いで頭を下げる。
『――わかりました。あなたはこの《星》を危険にさらしました。ですが、それは私の未熟故でもあり、解決したのはそこにいるスフィアでもあります。かなえましょう』
そう言ったかと思うと、《星》のコアさんが、大きく強く輝いた。
純白の光、何の色も付いていない。無垢で無邪気な光。
その暖かな波動が、この部屋を満たしていく。
心が温まるようなそんな光。
「わあ……」
この部屋の地面が輝きだした。《星》のコアと同じ綺麗な真白。
その光はまるで波のように揺れて、海の中にいる感覚になる。
ああ、どこか私が目覚めたあの《マボロシの海》の中のような……。
そして、水が湧き出るように《星》のコアのそばの地面から、大きな白い光の球がゆっくりと湧き上がってくる。そしてそのまま天上まで昇っていってすうっと消えていった。
私たちはその美しい光景を、ただ声も無く眺めていた。
部屋を満たした光は消える。そしてまた静かな空気が帰ってくる。
「あの、今のはどういう」
私がいまいち結果を理解できなくて聞いてみる。
『――あなたの提案の通り、生まれたばかりの鉱石の命を、方向性を与えること無く原石に根付かせました。今頃上の階層では輝く白い鉱石が誕生しているはずです。この世のどこにも無かった、願いに属しない自由な石が』
それを伝える。ワンデルさんは手のひらで目を押さえる。涙をこらえているのだろうか。
「ありがとう……、本当にありがとう。スフィアにもキズナにも、そしてこの《星》にも。俺見つけに行くよ。そしてこの《星》を離れる。今さらだけど、きちんと自分の道を歩いてみるよ」
「うん、それがいいと思う」
「店長には礼を言っていけよ」
私とキズナが口々に言って、ワンデルさんは苦笑いした。
「ああ、俺もう行くよ。決まったからには急ぎたいからな。迷惑かけたな」
「ううん、そんなことないよ」「ああ、面倒だった」
私とキズナが両極端なことを言って、今度こそワンデルさんは笑った。
「あんたら、ツアーガイドと客だっけ? ああ、いいコンビだよ。どっちかっていうと相棒か悪友って感じだ」
「「失礼な」」私とキズナの声がかぶる。
「じゃあな、いつかまた会おうぜ。いい旅を」
「うん、いい旅を」
そういって、ワンデルさんは走ってここにきた石柱のエレベーターに乗って上がっていった。
いろいろあったけど突然の別れは、やはり少し寂しい。
「あ、そういえば、上の暴走は収まってるのかな?」
その疑問には《星》のコアが答えてくれた。
『――問題ないでしょう。ここの暴走に当てられて上にも影響があったようですが、スフィアの願いが連鎖して収まったようです。もう、あなたが近づいても問題ないと思います』
「そっか、それならよかった」
そこは意図しないとはいえ、私のせいだったから心配してたんだ。
『――スフィア、あなたもここにパワーストーンを求めに来たのでしたね』
《星》のコアが話しかけてくる。
「うん、まあね。でもいいんだ。それは正直どっちでもよかったから、私の願いも願いなんだかわからないしね。なにか素敵な体験ができればって方がほんと」
『――ならば、私からお詫びをさせてください』
「え? いいよそんなの。私は十分楽しかったもの」
「そんなのんきな状況じゃ無かったろ。結構やばかったぞ今回のは」
「無事終わったからいいじゃない」
キズナは固いなあ。
「まあ、今さら言って聞くとも思ってないけど」
ため息をつく。
「だからお詫びなんていいの。この鉱石の《星》が楽しかったから、これからも楽しくあってくれればそれで。偶然だけど、《星》のコアさんともお話しできたしね」
『――強くて優しい子ですね、あなたは。気に入りました。ではお詫びではなく旅ゆくあなたへの贈り物とさせてください。それならいかがですか?』
《星》のコアが少し微笑んだような気がした。
「うーん、うん。そういうことならよろこんで」
少し考えて私はうなずいた。贈り物って何をくれるんだろう?
『――きっとスフィアは、願いをかなえる石をもらってもよろこばないでしょう。だからこちらを、友好の証として』
そういうと同時に、《星》のコアの体から何か輝く物があらわれた、それはゆっくりと浮きながら私の元にやってくる。
私は両手を広げてその輝きにかざす。
ふっと輝きが消え、私の手に重さが残った。
透明な宝石だった。中で色が揺らめいている。他の鉱石みたいに光の角度とかじゃない。本当に中で何かの光が波のように動いている。
揺らめく色は、次々に光を変え、生きているようでもあり、絶えず変化するこの世界のようでもあった。
「これは……?」
顔を上げて《星》のコアさんに尋ねる。
『――無垢なる石です。さきほどの造った赤子の石でもなく。ただ無垢な染まっていない石。私の本来のあり方そのものでもあります。あなたの見方によってその石はあらゆる色彩を映し出すでしょう。役に立つものではありません。ですが、少しでもこの《星》の思い出をよい物にできるのなら』
「わあ、素敵! すっごく綺麗! 最高の贈り物です!」
なんて素敵! そうそう、願いがどうとかもいいけど、やっぱりこの《星》に来たのなら、この《星》の美しさの思い出としてのお土産がいい。
『――よろこんでもらえたなら幸いです』
……この《星》でまたコアに会えるとは思ってなかった。いろんなイベントがあって、私はここにくることができて、《星》のコアに会うことができた。
そして素敵なお土産ももらった。普通の旅ならそれで十分すぎる。
でも、私はもう一つ大事なやるべきことを抱えている。
「《星》のコアさん、一つ聞いてもいいでしょうか?」
『――私に答えられることであれば、なんなりと』
「《マボロシの海》って何ですか? それに私がなんなのか、あなたにはわかりますか?」
これから先に私スフィアが進むために聞かなければならないこと。
この《星》は私の問いに、なにを答えてくれるのだろうか。
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