第41話:時計台の景色

「まあ、気にしないで。さて、せっかく最上階まで来たんだこの階を楽しもうよ。ここには二つの見所があるから」

「へえ、なんだろ」

 くるりと周りを見渡すと、一つ目が目に飛び込んできた。

「え? なんで?」

 そこにあったのは大時計。

 時計台の外から見えた時計とうり二つ。

「この時計、外にあったはずなのに何でここにも!?」

「ヘンテコでしょ。この時計台は、表と裏に大時計が二つついてるんだ。きっと、外からじゃ高くて見えない時計を、じっくり見てもらいたいって思ったんだろうね」

「へー……、すごいなあ。なんて贅沢な」

「この街基本的にコスト度外視なんだよね。まあ、願いを形にする《マボロシの海》でコストも何も無いけれど」

「それでも、やっぱりすごいよね。普通一つあれば十分だもん」

「この大時計が、街の人のためと言うより、観光客向けだから何だろうね」


 私はとてとてと、大時計に近寄る。

 こんなに大きな時計を近くで見られることなんて、なかなか無いんだろうなあ。

 近づいてみた大時計は、やっぱりとても素敵で美しかった。

 文字盤に数字ごとはめられた綺麗な石は、遠くで見ると小さく見えたけど、ここでみると一粒がなんて大きいことか。

 こんなに大きい原石なんて貴重なのでは?

 長針と短針の赤い石と青い石もキラキラと輝いていてうっとりする。

 こっちの石も一粒当たりが大きくて、粒と形の揃った仕事のされた石って感じ。


「さて、そろそろかな」

 キズナがそう言うと同時に、長針がカチリと動く。

 長針が真上を指した。

 同時に、天辺から音楽が鳴り響いた。明るくて弾むような音が鳴り響く。

 何かをたたくような、はじくような音。

 オルゴールのようだけど、ちょっと違う気がする。

「え? キズナ、なになに? 何がはじまるの?」

「スフィア時計を見ててごらん」

 あわてて時計に向き直る。すると……。

「わあ!」

 時計の文字盤が二つに割れ、左右に大きく開いていく。

 中から出てきたのは、大きく横に伸びる土の中のトンネルの絵と、つるはしを持ったこびとの人形が左右にそれぞれ一人ずつ、そして何かの機械と歯車だろうか。

 次に音楽に合わせて、こびとがつるはしを振り上げたり下ろしたり、土を掘り進んでいっている。動きがユーモラスで可愛い。

 なんと、長針と短針も音楽に合わせて踊るように揺れている。

「からくり時計になってるんだ。外でも同じものが見えているはずだよ」

「すごいね! おもしろーい、たのしーい!」

 音楽が鳴り響き、からくりがあちらこちらで動く、歯車が周り何かが運び出されていく。こびとはつるはしを何度も振り下ろしている。

「あっ」

 私は声を上げた。つるはしが上がるとそこに赤く光る石があらわれたからだ。

「おお、宝石を掘り出したってことなんだね!」

「そう、これは鉱石の原石を採掘する様子を表してるんだね」

 言っている間にも、どんどんと宝石が発掘されていく。

 青い石、紫の石、黄色の石、オレンジの石、掘り出された石はトロッコで運ばれていくようだ。よくできた動きでとても楽しい。

 最後に大きな白い石が掘り出されると、こびとがよろこぶようにはねて、文字盤がまた閉まっていく。

 音楽が止まり静寂が帰ってくる。

「面白かった~!」

「楽しい動きだよね」

 キズナも楽しそうだった。

「この時計キズナも好きなの?」

「うん、なんだろう。こびとが頑張っている感じと、宝石を見つけた喜びが伝わってくるようでさ。少し気に入っている」

 あまり、自分の感想を言わないキズナがそう言う辺り、かなり気に入ってるんだろう。

 サイズ的にはキズナもこびと何だよね、と思いながら時計の動きを思い返す。

 つるはしを持って石を掘るキズナ。なんだろう、すごく似合う気がする。

 真面目にやりそうだもんなあ……、と思ったことは口に出さずにおいた。


「これが見所の一カ所めなんでしょ? ねえ、次はどこどこ?」

 私はきょろきょろと部屋を見回す。天井かしら、床かしら。

 その様子にキズナがふふっと笑う。

「慌てないでスフィア。見るべきはあそこだよ」

 そう言って指さした先は時計部屋の大窓。この窓はとくに宝石とかははまっておらず、珍しくと言ってはへんだけど、広く横に長い普通の大きな窓だった。

「あの窓?」

「正確にはその外かな。さあ、ここはどこだっけ?」

「あ!」

 そうだ。ここは高い時計台の最上階。街を一望できる場所だ。

 大窓にかけよる。張り付くように窓から外を見た。

 そこにはステンドグラスにも負けない、幻想的な景色が広がっていた。

 色とりどりの宝石で飾られた鉱石街の建物が、ミニチュアのように展開されている。

 モザイクタイルのように、たくさんの色をふんだんに使った絵画のように。

 言葉を失う景色。

 さっきのらせん階段がつつみこむような優しい空間とすれば、この景色は飛び込んでくるような強く勢いのある景色。

 赤とオレンジの四角い建物がある。

 緑と紫でできた丸いドームがある。

 黄色く輝く街灯がある。

 さっきまで歩いていた、たくさんの色を並べた素敵な道がある。

 まるでここからの景色のための街のように、きれいできらめいていて素敵な絵の街。

「いい景色だよね」

「とっっっっても! 本当に『もっとも美しい《星》』だよ」

「あっちも見てごらん」

 とキズナが指さしたのは、街の反対側。

「あ!」

 またも声が出た。

 そっちにあったのは大きな山のような広い岩場。

 でも、ただの岩場じゃ無い。

 あちらこちらから、というかほとんど全ての場所から、輝く大きな宝石が飛び出している。むきだしの宝石がまるで岩場を染めるように広がっている。

「なにあれ!? 全部宝石なの!?」

「そうだよ。あそこはこの街の鉱石をすべて産出する鉱脈さ。あそこの石を切り出してこの街で使っているんだ」

「掘る前からあんなにとびでてるの!?」

 すごい、ほとんど宝石の塊だ。こんなにあるんなら、鉱石街やこの塔でふんだんに宝石が使える理由がわかる。

「すごいね……。なんだか自然のきれいさと強さを集めたみたい」

「ああ、面白い表現だね。言い得て妙かも」

 鉱石街は作り込まれた美しさだけど、鉱脈はなんていうか大地の力強さを表現している感じに見える。まるで反対だけど、どちらもとてもきれい。

「あとで、あそこにも行こうかと思ってるんだ。ちょっと遠いけどどうだい?」

 そんなの決まってる。

「もちろん、いく!」

「スフィアならそう言うと思ったよ」

 キズナが笑った。

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