第33話 カミカゼと不安

カミカゼはフウセンから連絡を受け取り、

不安でおろおろするフウセンをなだめて、

フウセンと一緒に電波の波型を見る。

機器に映し出されるそれは、フウセンでなければ読み取れない。

フウセンはそこに不安を見出し、カミカゼにすがってきた。

カミカゼはすべてがわかるわけではない。

ただ、不安があったら、それを取り除いてあげたいというのが、カミカゼのあり方だ。

町の住人にとっても、そのやりかただし、

フウセンが特別なわけではない。


フウセンは、少し気持ちが落ち着いたようだ。

ごめん、と、小さく謝った。

カミカゼは電気街中心の仕事で忙しいのに、ごめんと謝る。

カミカゼはフウセンの頭をぽんぽんと叩く。

とにかく、どの電波がどんな風におかしかったのか、

それをちゃんとまとめればきっと落ち着くはずだ。と、

カミカゼはフウセンに指示を出す。

フウセンはいろいろなものを抱え込むことができない。

電波技師になっても、住民の電波を抱え込むのに、

フウセンは責任の重さから、当初はよく泣いたものだ。


フウセンは報告書を作る。

カミカゼがそれを手伝う。

報告の形式を作るのは、カミカゼの得意分野ではある。

どんなに小さなことであっても上に報告。

迅速な決定が下される。

カミカゼはそれを信じているが、

不意に、カミカゼに不安がよぎる。

もし、フウセンの感じたおかしな電波が、

迅速な決定に何か影響を及ぼしたら。

カミカゼが信じている老頭の決定に、何か、よくない影響があったら。

カミカゼは頭を振る。

そうならないために、カミカゼは電波局に来た。

そうならないために、違法局はどんどん摘発していく。

でも、と、カミカゼは思う。

法の番人である者が、もし、摘発をおこなわなかったら。

カミカゼの不安は増幅していく。

フウセンの不安の波がうつったかのように。


近いうちにカガミに会いにいこうとカミカゼは思う。

カガミはきっと職務を全うしてくれていると、カミカゼは信じる。

信じなければ、カミカゼの不安が消えない。


カミカゼは不安を持ってはいけない。

まずは町の住人の不安を取り除かなければいけない。

みんなのため。理を通さなくてはいけない。

それはゆがんでいてはいけないと、カミカゼは信じている。

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