第30話 武士カタナ

いらいらしたコビトがある路地で出会ったのは、

化け物のような気配を持った、男だった。

姿は普通の人間。

ただ、ここらでは見ない装束をまとっている。

気配が……化け物だとコビトは感じた。

コビトが逃げ出そうとしたそのとき、化け物の気配がぐるりと振り返った。

本当は、男が振り返っただけなのだが、

コビトは化け物のような、目を真っ向から見た気がした。

食われる殺されると瞬時に思った。

どうしてそう思ったのかはわからないが、

コビトはとにかく、逃げられないと、もうだめだと、それだけを思った。

男は、コビトの姿を見ると、

無表情のまま、すさまじかった気配をといた。

それは興味を失ったという合図だとコビトは解釈し、

へなへなとへたりこんで、ともかく助かったと思った。

今までひどい目にはいくつもあってきたコビトだったが、

こんな化け物みたいな気配は、初めてだと思った。


男はコビトに近づく。

男は自分の名前と身分を名乗る。

武士のカタナといい、旅の途中にあるという。

この町にきたはいいが、右も左も敵味方もわからないと、

驚かせたのならばすまないと、カタナはいう。

もののふという言葉は、コビトもこの町に来る前に聞いたことがある。

武器に命を託し、信念を貫こうとする古い人間だと聞いた覚えがある。

カタナの信念は何だろう。

コビトは先ほどの恐れも忘れて、聞くことにした。

カタナは答える。

強いことの証明をすること、ただそれだけになってしまったと。

それだけになってしまった。その言葉は、コビトに物悲しく響いた。

カタナにもいろいろあったんだろうか。

強いことの証明とは、一体なんだと、コビトは問う。

カタナは答える。

切れないものを切ること、殺せないものを殺すこと、

そして、かえせないことをかえしてしまうこと。


コビトには理解しづらいことだったが、

要するに不可能を可能にするのがすごいということはわかった。

カタナは英雄になりたいのだろうか。

どんな状況も打破する、英雄というもの。

コビトはそのことをカタナに言ってみる。


カタナは思いがけない言葉であるかのように驚き、

苦笑いした。

コビトはカタナを怖いとは、もう思わなかった。

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