第20話 ギーグ
◇ ギーグ視点
領主様直属の騎士団に入隊し二年が経った。
騎士団の職務にも慣れてきた頃、俺は現実を知ることになった。
それは目を背きたくなるようなものだった。
確かに奴隷の中には、救いようのないどうしようもない屑がいる。多数の罪なき人を殺害したようなな。
だからといって、これが許される行為かどうかは疑問が残る。
俺たちの目の前にいる男は、確かに重犯罪人だ。
その男は俺たちに必死な目を向けて救いを求めていた。
だが俺たちは誰一人動くことが出来ない。命令されているからだ。
やがてその男は魔物の作り出した繭の中に取り込まれ、この世から消えた。
ダンジョン。それは莫大な富を生むとされている。
ここナーフ領もそのお陰で見違えるように栄えてきていた。
だがその方法は……財源となる素材を確保するために、人間を魔物に捧げていた。
収穫期になると奴隷を使って素材を確保するという話は嘘で、その奴隷を魔物に取り込ませることで、多くの素材を生み出していた。
「このことは他言無用だ。なに、どうせ犯罪奴隷として死ぬまで働くしかない奴らだ。むしろ我々のために死ねるだけ幸せだろう」
酷い云いようだった。
その言葉に反発する者もいたが、そいつはいつの間にか見かけなくなっていた。
消された。
それが俺たちの共通した認識だった。
見せしめだったのかもしれないが、逃げられないということが分かった。
これが領主様主導で行われている以上、訴えることも出来ない。
揉み消されるのは目に見えているからだ。
だから俺は心を殺し、ナーフ領のためと言い聞かせて働いた。
だけどそれは長続きしなかった。
結局、俺は不穏分子として処分されそうになった。
誰かの前で不満を口にした覚えはないし、隠し通せていたと思ったが、どうやら隠せてはいなかったようだ。
俺が助かったのはギフト【未来視】のお陰だ。
これから訪れるかもしれない未来を
それに視たものが必ずその通りになるとは限らないときたもんだ。
もっと都合良く未来が分かるなら、この腐った騎士団になんて入っていなかった。
だけど今回に限っていえば、未来視のギフトに感謝した。
俺は襲い掛かってきた同僚を殺し、差し向けられた追っ手を殺し、落ちるところまで落ちていき盗賊となった。
奴隷を……重犯罪人を生贄にするのも領民のためならもしかしたら我慢出来たかもしれないが、それは領主たち一部の人間が贅沢に暮らすためだったからだ。
なら俺も自由にしようと思った。
それからは領主たちの妨害を色々した。
義賊を名乗るつもりはないが、主に領主たちと繋がりのある商人たちを積極的に狙った。
今まで散々甘い汁を吸っていた輩だ。問題ないだろう。
今度は俺が搾取する側に回り、奴らは搾取される側になった。
だから余計に目の敵にされて、俺は賞金首となった。
やった覚えのない悪事も、俺がやったことになっていた。
そんなある日のことだった。
俺たちはある情報を入手した。
眉唾物の話だが、調査の結果それが真実だということが分かった。
いくつかの盗賊にもそれとなく情報を流し、俺たちはある商隊を襲撃した。
激しい抵抗にあってお目当てのものは手に入らなかったが、諦めるわけにはいかない。
あれが手に入ると入らないとでは、今後の方針が大きく変わるからだ。
それを発見したのは、襲撃から十日近く経ってからだった。
ただ中身は空っぽだった。
深手を負っていたという話だったから既に死んでいると思ったのに……まさか生きている?
馬車も原型を留めているし、その可能性が高いのだろうか? この血の量では死んでそうだが……誰かが助けたのか?
そんなことを考えていた時、ある集団が近付いてきているという報告を受けた。
そしてその中に俺たちが探し求めた人物がいるという話じゃないか。
どうするか迷ったが、街に籠られると俺たちでも迂闊に手が出せなくなる。
ならここで勝負をかける必要があるが……見張りをしている奴らの立ち振る舞いや魔物との戦いを観察して、俺は襲撃することを決めた。勝算は高いと踏んだからだ。
この時期、対人戦がある程度得意な奴らはダンジョンの警備に就くと分かっていたというのもある。
俺たちが何度か襲撃したから、警戒して警備を強化したわけだ。
俺たちが襲撃した事実は公表されていないし、噂にもなっていないから領主たちが揉み消しているようだったが、俺には関係のないことだった。
俺たちもそう簡単にダンジョンを落とせるとは思っていない。
むしろ襲撃したことで、この時期にダンジョンの警備に人を割かせて、俺たちが自由に活動出来るようにすることが第一の目的だったからな。
そして俺たちは襲撃を開始した。
本当はその日のうちに仕掛けたかったが、さすがに今いる人数だけで襲うには分が悪かったからだ。
仲間の使うギフトを利用した襲撃は途中まで成功していたが、それを打ち崩す存在がいた。
集団の中でも弱いと判断した餓鬼だったが、そいつの振るう剣は時間が経つごとに鋭さを増していった。
その剣の前に、仲間たちが次々と倒れていく。
それを見て、少なくともその餓鬼は剣術の基礎を習っていると感じた。
冒険者にしては珍しいが、もしかしたらギフト持ちかもしれない。
それでも実際に対峙して、剣を交えてみたが負ける気はしなかった。
もちろん油断は微塵もない。
俺たちのいる世界では、その僅かな油断が死に繋がることを知っているからだ。
だが、結局俺は読み違えた。
「そうか貴様が……」
振り下ろされる愛刀を目にした瞬間。俺の未来視のギフトが発動した。
もっと前にそれが視えていたら……俺の意識は闇の底へと沈んでいった。
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